岡本浩氏、長谷川敏彦氏の話を受けて、今回から鎌田氏による講義となる。まず指摘するのは、空海が説く『弁顕密二教論』の考え方である。この著書で空海は、仏教の顕教は「中論」「唯識論」「空観」など世界を分割して見ていく傾向があるのに対し、密教の世界観ではあたかもすべてのスイッチを「オン」にして、すべてをつないでいくような発想を取るという。その世界観の中では、分割や対立は便宜的な幻想にすぎないものとなる。さらに空海が説いた「虚空蔵求聞持法」は真言を100万遍、100日間唱える修行だが、これは虚空にしまわれている無尽蔵の全宇宙記憶にアクセスするためのものだという。そこから見えてくるものとは、いったい何なのだろうか。(全6話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●密教は全てを「オン」にしてつないでいく
―― では、今のお二方のお話を受けて、鎌田先生はどのようにお考えになるかというところですが。
鎌田 いろんな角度から、その接点を私のほうから提示できます。まず、オン・オフという観点から物事を見てみます。
(何か)物事を行うとき、(例えば)電気のスイッチをオンにする、スイッチをオフにする。それによって流れるか、流れないか、全然違う世界が現出する、しないということがあります。このオン・オフというコードというのか、その仕組みというのは、密教の基本を成しています。
空海の本でいえば、『弁顕密二教論』があります。『弁顕密二教論』、つまり、世界には顕教と密教の2種類があるということです。そして、顕教は要するに分かれているのだと。要するに分割するのです。「小乗仏教」とか「大乗仏教」とか。「中論」であるとか「唯識論」であるとか「空観」とか。そういうものを、1つの世界を綿密につなぎ、つくり上げるのです。
だけれども、密教はそうではないのだと。では、どうなるかというと、全て「オフ」にしないで、全てを「オン」にしてつないでしまう。だから、あらゆるものが全て数珠つながりみたいになって、それがインドラネットという、先ほどの構図にまで行く。理論的にはインドラネット的な考え方をベースにして、あらゆる宇宙をつなぎまくるというか、もうつなぎ倒すわけですね。
それが、実は世界の実相なのですよ、と。自分たちが分けられると思っていること自体のほうが、むしろ幻想というか、制限してしまって、われわれの持っている実相世界というようなものを、ちゃんと見切っていないのですよという見方なのです、『弁顕密二教論』は。
だから、そういう密教の立場に立って、全世界を、全宇宙を俯瞰してみましょうと。もう密教ほど俯瞰できる視点はないのだと。あらゆるものをつなぎ回すわけですから。
●光よりも速い空海の理論
鎌田 だから、エネルギーと通信ということからすると、最大の効率を密教は打ち出せるということになります。通信とエネルギーを全部つないで、かつ身体をモビリティとして捉えているので、身体は「法身」(永遠普遍の宇宙の真理そのもの)、「報身」(真理を悟った力をもつ人格的仏)、「応身」(衆生救済のため現世に姿を現した仏)という3層世界です。
例えば、お釈迦さん...