ますます進む高齢化社会において医療を根本的に転換する必要があると言う長谷川氏。高齢者を支援する医療はもちろん、悪い箇所を見つけて除去・修理する近代医学から統合医療への転換が求められる中、今後世界の医学をリードするのは日本だと力説する。その心とは。今回は医療が専門分野である長谷川氏による講義。(全6話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●医療は総合的に変えていく必要がある
―― ここで鎌田先生のお話をいただきたいところですが、先に長谷川先生のお話をいただいた後で、まとめてお話をいただく形にしたいと思います。
では、長谷川先生、よろしくお願いいたします。
長谷川 岡本さんのお話をお聞きして、たいへん興味深く、そして私が考えていることに共通する側面が多いなと分野は違っても、問題の構造とか、場合によっては解決も近いところにあるのかなと思いました。医療の場合はどうしても小さな自然として身体というものを扱うので、問題が出やすいし、身近に感じやすいと思います。
それで、今、環境問題やエネルギー問題と同様に、医療は大きな転換期にありまして、どうしていったらいいのだろうとみんなで考えているのですが、その転換の理由の1つは端的にいって高齢化です。高齢者の病気というのは若い人とだいぶ違います。若い人は1つの病気が多くて、それを治せば治るということなのですが、高齢者の場合は複数病気を持っていて、それが急に悪くなる、それをなんとか治して良くなっても、次にまたエピソードが起こってくるということです。
図でご説明すれば、この図の縦軸はADL(日常生活動作能力)で、急性、慢性の疾患が急性悪化してドーンとADLが下がり、そして治療をしたら元へ戻ります。そのときに単に病気を治すということだけでなくて、予防とか介護とかを総合的にやる必要があります。
そういうことを繰り返しながら、最後、亡くなっていくのですが、その結果を看取るという、全体の構造を持った医療に変わっていくのです。そうすると、若い人のときの目的、(つまり)病気を治す、あるいは命を救うというのとは違う、新しい(医療)の目的自体が変わっていくわけです。
次のスライドでご説明すると、近代医学が出来上がったのは、近代医学の定義によりますが、1850年代(19世紀の半ばぐらい)にドイツで、具体的にはウィルヒョウという学者がまとめた細胞病理学が、そのクリスタライズされた形だったといわれているわけです。
●高齢者の医療に重要な発想の転換
長谷川 当時、平均寿命が50歳以下で、病気は1回きり。そして、みんなが一生懸命病気を治す、命を救う。それを専門家が病院で行う。...