●太平洋の海底の年齢は1億年以上
―― 皆さま、こんにちは。本日は東京大学大気海洋研究所教授・沖野郷子先生に、「海底と地球システム」についてのお話を伺いたいと思います。沖野先生、どうぞよろしくお願いいたします。
沖野 よろしくお願いいたします。
―― 今回、「海底と地球システム」という大きなテーマの講義になってくるわけですが、主にはプレート理論といいますか、海底がどうつくられて、沈んでいくかという動きについてお話を頂くということですね。
沖野 そうですね。
―― 地震大国日本ですので、だいたいプレートが日本近海で沈み込んでいるというのはさまざまなニュースなどでご存じの方が多いとは思いますが、そのプレートが一体どこから来ているのかは案外ご存じない方も多いかと思います。沖野先生はまさにプレートが生まれるところ、そこについての研究が一番のご専門ですか。
沖野 そうです。
―― 最初に伺いますが、プレートはどこから来るのでしょうか。
沖野 例えば上の地図を見ますと、ご存じのように日本列島です。日本列島は、東北日本の場合、ここ(太平洋側)に日本海溝という、紫で描いてあるような深い海がありますが、その東側の太平洋のプレートが東北日本の下に沈み込んでいます。
西南日本の場合、ちょっと浅いので色が緑っぽくなっていますが、ここが「南海トラフ」と呼ばれている、プレートの沈み込む場所で、その南側のフィリピン海プレートが西南日本の下に沈み込んでいます。フィリピン海プレートは、西の方では琉球海溝(南西諸島海溝)のところにも北西向きに沈み込んでいます。例えば、2011年の大きな地震を起こしたところがここ(東北日本の太平洋側)ですが、ここの場合は太平洋プレートが沈み込んでいます。沈み込む向きは北西向きからだいたい西向きで、ちょっと時間をスルスルっと巻き戻すと、そのプレートはどこかすごく遠くからやってきたことになります。
実は日本の沖合の太平洋の部分は、海底の年齢にすると1億年以上になります。
―― 1億年ですか。そうすると、ほぼ恐竜がいたぐらいの時代になるわけですか。
沖野 そうですね。
●地球の火山活動の8割は「中央海嶺」で起こっている
沖野 この図を見ますと、これは世界中の海底の年齢を推定した図です。色が年齢になっていて、赤っぽい色のほうが新しく、青いほうが古い。ここ(下のほう)に数字が書いてありますが、単位が100万年で、100というところが1億年のことです。
日本の横を見ると全体的に青い色になっていますが、これは非常に古い海底が沈み込んでいるということです。このもとはどこかというと、今まさに海底が生まれているところで、ここ(太平洋の赤い部分)になります。
この図は年齢だけですのでちょっと分かりにくいのですが、実際にこのプレートがどういう風に動いているかを描いたのがこの次の図になります。
この図は、矢印がプレートの動く向き、矢印の長さが動く速度を表わしています。図の下部にマークが描いてありますが、1年間に5センチぐらい動くということです。
―― 意外と動くものですね。
沖野 意外と動くんです。これは地球の深いところに対してどれぐらい動いているかということなんですが、今の東北日本の例でいうと、太平洋プレートが日本に向かって動いていることがよく分かると思いますし、速度もかなり速いですよね。10センチにはちょっといかないぐらいですけれど、10センチに近い。どこから来たか、戻ってたどっていくと、赤で描いてあるラインのところになるわけです。
―― ということは、はるばる南北アメリカ大陸の近くからやってくると。
沖野 1億年前はプレートの配置全体が今とは非常に大きく変わっていて、全てのプレートが動いて今の形になっているので、今のアメリカの西とイメージを持たれると、ちょっと違うかもしれない。
―― なるほど。
沖野 1億年間、太平洋ぐらいの距離を移動してきたということは分かると思います。
赤で描いてありますが、そこが海底がまさに生まれる場所だということになります。そうすると、実際に生まれているその場所がどういうところかということになるんですが、その場所のことを「中央海嶺」といいます。日本の皆さんにとってはなじみがなく、ものすごく遠いところにあります。後で説明しますが、火山の大山脈があり、ここで火山が噴いても気が付かないし、社会的な影響はほぼない。ということで、あまりご存じない方が多いと思います。
実は地球上にこのプレートを縁取るような海底の火山山脈が連なっていて、この火山山脈のところで新しく海底ができて、両...