●沈み込むプレートの動きで隙間が開くので、仕方なく埋める
沖野 (なぜ海底が生まれるところで火山になるのかということですが、)この図は漫画みたいになっていますが、まずそれはどういう場所かというと、両方のプレートが離れる場所ということです。離れていくと、地球上では真空(の存在)は許されないので、隙間が開いては困る。「しょうがないので」下から物が上がってくる。この「しょうがないので」というところが結構ポイントです。
よく誤解されるのは、何か下からマントルが上がってくる、その上昇流があるからそこに火山があるというイメージを持ちやすいことです。そういう要素がゼロではないのですが、プレート運動を決めているのは何かというと、おおむね沈み込む側で引っ張られているのが主たる原動力です。たぶん9割ぐらいはそれで説明できてしまいます。よって、どこか端っこのほうで引っ張っていると、仕方なく開くということです。仕方なく開くと仕方なく埋める。というのが中央海嶺のシステムですね。結果的に確かに物は上がってきているのですが、上がってくることありきではありません。
―― 押し出していくというよりも、引っ張られていく感じだということですね。
沖野 引っ張られて、隙間に物が上がってくるということです。
―― となると逆に、引っ張られるのはなぜですか。
沖野 引っ張られるのは、テーブルの上からテーブルクロスが落ちるようなもので、一旦沈み込み始めてしまえば、もう自分の重力でテーブルクロスが落ちかけたときするするっと落ちるのと一緒です。
―― では、それもマントルの力というよりも…。
沖野 はい、沈み込むプレートの重みで、自分で落ちているということです。
そして、開いたところに物が上がってくるということです。
●「地温勾配」と「ソリダス」
では、地球の中の深いところがどうなっているかをちょっと説明したのが右の図(上のスライドの図b)です。これは、縦軸が正確には圧力ですが、地球の中と考えると深さのことです。海底面からずっと深いところと思えばいい。横軸が温度。皆さん、おそらく直感的に分かると思いますが、地下深くにいけばいくほどだんだん温度は高くなる。この線は「地温勾配」といいますが地下の温度のことで、皆さん想像できる線と思います。ところが、その横にもう1つ「ソリダス」という謎の線が1本あります。
ソリダスとは何かというと、岩石が溶け始める温度です。正確にいうと、全部は溶けない。氷が0度で溶けます。例えば、大きい氷があって熱を加えると、その熱は氷を固体から水にすることに使われます。最初の状態ではちょこっと水ができる。どんどん加熱していくと、全部水になる。全部氷から全部水になるまでの間、氷も水も0度のまま。おそらく中学校の理科などの授業で、「融点は一定である」と習うはずです。
ところが、岩石というのはシンプルなものではなくて、いろいろな鉱物、いろいろな元素でできているので、岩石を温める場合、ある温度になると溶け始めて、それが液体になる。どんどん加熱していくと、どんどん溶けていって、いつかは全部液体のマグマ(私たちは「メルト」といいますが)になる。その中間の、固体と液体が両方存在する状況のときにも温度がどんどん上がり続ける。加えた熱が、固体から液体に変化するために使われることと、全体を温めることの両方に使われるのです。なので、融点とはいわずに、溶け始める温度と全部溶ける温度を別に設定します。
地球のマントルは、かんらん岩(編注:火成岩の一種でSiO2成分が約45パーセント以下の超塩基性岩)にほぼ代表されるのですが、かんらん岩がどういう温度、どういう圧力で溶けるかということを、実験室でちゃんと確かめることができるのです。その線がこれ(「ソリダス」と書かれている線)です。図aにあるマントルの岩石は、図bにある温度と圧力になると溶け始める、つまりちょこっとマグマができるということです。
でも、図bで地温勾配とソリダスの線を見ると、地球の中でどんな深さにいっても、常に溶け始めの温度は高いですよね。つまり、そうしたら、溶けないということです。
―― 少しイメージが違いますね。
沖野 マントルは石なので固体です。このままでいくと、火山は存在しないことになる。だから、何か条件がないと火山はできない。だから、地球上どこでも火山があるわけじゃなくて、ある条件が整ったときに、マグマが生産できて火山ができるということです。
―― マグマは必ずしも普通の姿ではないということですね。
沖野 そうです。ここ(図aのマントル部分)は固体です。
そこで、ここ(マントル上昇流の一番上の部分)はどうなっているかというと、中...