●マルチビーム測深機を使った音波による水深測定
沖野 でも、こうした衛星のオープンなデータを使えるようになったのは1990年代の終わりぐらいからです。
―― 結構新しいですね。
沖野 はい。私がこの世界に入った頃にはなかったですね。だから船に揺られて、延々調査するしかなかったのです。衛星のオープンなデータが出てきた時は、「これは船酔いせずに研究ができる」と思いました。ただ、これ(衛星高度計)で調査すると分解能はどうしても(精度を欠きます)。地球上くまなく測れるのはすごいメリットですが、現在の地球で分解能は約2キロメートル(2,000メートル)です。
―― 2キロメートルの分解能というと、どの程度把握できているのでしょうか。
沖野 それは後でお見せします。2キロメートルだと小さい山は分からない。
船で調査する場合、船から音波を出します。音は水中をうまく伝わるので。一般名称としては「ソナー」といわれる測深機(深さを測る機械)が船に載っています。
―― よく魚群探知とか、潜水艦を探したりするものですね。
沖野 はい。同じものです。そういうものから発達して、海底もそれで測ろうということです。昔の測深機は、船から下向きに音を出して返ってくるのを感知するだけなので、船の真下に点々と水深が分かるのみでした。その結果、船は地図を作るために何度も行ったり来たりしなければいけない。
―― 非常に狭い範囲しか測れないということですね。
沖野 はい。しかし、現在は、一度にたくさんの音響のビームを扇型に出すので、広い範囲の水深が測れます。今の深海用の標準的な測深機(マルチビーム測深機)だと、だいたい水深の3~4倍ぐらいの幅を一度に測ることができます。(照射する)ビームの数が150本とか200本とか出ますので、深さにもよりますが、数10メートルから100メートルぐらいの分解能になります。だから、(繰り返しになりますが)人工衛星の分解能は推定2キロぐらいで、船の場合、分解能は数10メートルか、悪くても100メートルぐらいです。
ただ、それでも、例えば中央海嶺の丘ぐらいだと、丘(の存在自体)はこれ(マルチビーム測深機)で感知できるけれども、丘でどういう溶岩が流れているかなどは分からないのです。
●自律型ロボットの測深機を海中に入れ、深海の水深を測る
ではどうしたらいいか。このシステム(マルチビーム測深機)の図を見て分かるように、船からある角度で音波を出します。水深が浅ければ浅いほど、探査する実際の幅も狭くなるが、細かく測れます。したがって、同じタイプの測深機で、例えば東京湾を測るとか、沿岸の研究をする場合は、もっと細かい地形データを得ることができます。しかし、深海で測ると、先ほど「中央海嶺の水深はどれぐらいですか」と聞いてもらいましたが、2,000メートル(2キロメートル)とか3,000メートル(3キロメートル)くらいということで、そのくらいの深さだと、分解能100メートルとか50メートルになってしまうのです。
では深いところを(細かく)測るのにどうするかといえば、この測深機を水の中に入れてしまえばいいのです。
ということで、自律型のロボットに同じ仕組みのソナーを付けて、海底から100メートルぐらいの高度でずっと走らせるのです。
―― 相当深いところに(ロボットを)潜らせるわけですね。
沖野 そうです。これはプログラミングされていて、勝手に「こう走ってきなさい」と指示します。工学系の方、自律型ロボット開発を研究している方の話では、もっと自分で判断させて、例えば一度はプログラミングした通りに走るけれども、何かセンサーで異常が出た場合、自分で戻ってもっと細かく走るとか、工学的にはそのようにするそうです。
―― なるほど。性能がどんどん良くなっていくわけですね。
沖野 そうですね。この10年ぐらいでとても進歩した分野だと思います。こういう(自律型ロボットの測深機)ので測ると本当に(分解能が)陸上並みになって、よく見えます。
沖野 上のスライドは(解像度の)比較をしたものです。この画像はグアム島の西側のものですが、一番左の画像は人工衛星で重力から推定しただけ。そうすると、先ほど中央海嶺で(地形図を)つくったのと同じで、山脈がここ(画像の中央)にあるのが分かります。画像の青い四角の部分を色だけ変えてそのまま拡大したのがこの画像(中央の画像の左上図)です。ここ(中央)に尾根線があり、ここ(右下)に山があるということが分かります。
―― これは、昔のデジカメで撮った画を拡大するとよく分からない状態になるのと同じ...