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AIやディープラーニングによって社会分析の方法が変わる

社会はAIでいかに読み解けるのか(1)経済学理論の役割

対談 | 柳川範之松尾豊
情報・テキスト
AIやディープラーニングの登場によって、従来の社会科学はどのように変容していくのだろうか。これまで特定の仮説に基づいて行われてきた経済学の理論モデルは、「多数パラメータの科学」の導入により、転換していくかもしれない。(全8話中第1話)
※司会者:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:46
収録日:2020/03/03
追加日:2020/04/21
タグ:
≪全文≫

●理論に基づいて現実を観察していくのが今までの経済学だった


―― 皆さま、こんにちは。本日は、柳川範之先生と松尾豊先生に「社会はAIでいかに読み解けるのか」というテーマでお話をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。

松尾 よろしくお願いします。

柳川 よろしくお願いします。

―― 今日のテーマは、ディープラーニングと社会科学および社会の関係についてです。今後、ディープラーニングの手法が進んでくると、これまでの社会科学や社会の考え方がまったく変わったものになっていくのではないかといわれています。その前段として、まず柳川先生に、これまでの社会科学は、どのように理論や個別的な研究を組み上げていったのかをお伺いします。

柳川 社会科学は広いので、どちらかというと、私の専門の経済学を中心にお話したいと思います。すごく昔は、しっかり世の中を見通せる思想家のような人がいて、「経済とはこう動いているのではないか」「世の中はこういうふうに動かしていくべきなんじゃないか」という、自分の思想を本で伝えてきました。そこから、だんだんその思想をモデル化する作業に進んでいきました。それは、自然科学の法則やモデル化を社会科学に応用するというイメージです。経済や社会の中で起こっている現象を、理論モデルに落とし込むのです。

 理論モデルを考える際には、現実を観察した事実や、簡単なデータなどに基づいて、理論モデルを組み立てます。こうした理論モデルの構築の中には、かなり思想や直感も入っていきます。そして、理論モデルを組み立てた上で、それがどのように実体として動くのかを、データを整備した上で解析し、それを例えば経済予測や政策の予測などに使ったりしました。これが、経済学のざっくりとした、これまでの流れだと思います。

 つまり、データと現実の結果を見て、理論をバージョンアップさせて変えていくのですが、そこには基本的に、ある種の思想体系としての理論モデルがあり、その理論モデルに基づいて、現実の分析が行われます。最近、経済学でもデータの活用が進んできています。現実に合った理論になっているかということを、データ分析によって判断し、それによって理論をバージョンアップさせていくという動きです。それでも経済学は、歴史的には理論先行でした。理論に基づいて現実を観察していくのが、今までの経済学だったのだと思います。


●経済学の多くが仮説による理論モデルで現実を説明することに注力してきた


―― 思想に基づいて理論をつくるというのは、具体的にはどのようなものになりますか。

柳川 例えば、マクロモデルでいえば、「消費関数」や「投資関数」と呼ばれる、経済全体の消費や投資がどうやって決まるのかについての、関数系を作ります。その際、人々の今期の消費や投資がどのような変数に基づいて決まるのかを、実際に人がどんな意思決定をしているかを分析し、考えなければなりません。そのため、まず消費や所得といった意思決定についての経済モデルを組み立てます。消費や所得が、景気動向や金利に左右されるだろうという、一種の仮説に近いような経済モデルを組み立てるのです。

 これに基づいて実際にデータを分析し、「所得が上がると消費が少し増える」というような仮説を用い、消費関数の推計をします。このように組み立てていき、最終的にはマクロモデルが作られます。要するに、「消費を決めるものはどのような要素か」、あるいは「投資を決めるのはどういう要因か」ということは、ある種の仮説に基づいた理論モデルがあり、それをデータで当てはめて考えてみるのです。もちろん、そのデータから理論を変更していくことはあるのですが、経済学の多くの部分が、理論モデルから現実を説明していくことに注力してきたと思います。


●AIやディープラーニングで社会分析の方法が変わる2つの要因


―― こうした分析の仕方は、先ほど冒頭申し上げたような、AIやディープラーニングの手法によって、根底からガラリと変わるのではないかといわれています。松尾先生、どのように今後変わっていく可能性があるんでしょうか。

松尾 まず、大きな要因が2つあると思っています。1つはデータの話です。これは、観測できるデータが増えているということですね。特に2000年代に入って、インターネット上でのデータがたくさん取れるようになり、ソーシャルメディアの分析も可能になりました。また今は、POSデータ(Point of Sales、売上データ)や移動に関するデータ、アプリ使用に関するデータなど、さまざまなデータが取れるようになってきています。これを活用するのが効果的であるということも、分かってきています。

 例えばコンサルティングファームの仕事も、従来は戦略コンサル(コンサルティング)が主流でし...
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