テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

変化する経済現象の中、過去のデータをどこまで重視するか

社会はAIでいかに読み解けるのか(4)状態変化という困難

対談 | 柳川範之松尾豊
情報・テキスト
多数パラメータモデルでは、前提条件の共有が不可欠だが、その方法はいまだ確立していない。さらに経済現象の場合、データを分析する際に状態変化も考慮に入れる必要がある。ディープラーニングの課題も、この点に存在する。(全8話中第4話)
※司会者:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:52
収録日:2020/03/03
追加日:2020/05/12
≪全文≫

●一番難しい前提条件をいかに共有するかが課題


―― 非常に単純な例でいえば、経済学におけるマルクス主義の考え方はとても分かりやすいかと思います。マルクスは自身の考え方を科学だと言いました。条件が変わっていくプロセスについて論じ、そのプロセスの中で必ず革命が起きるのだと主張しました。つまり、パラメータを非常に絞っていったわけです。これは先ほどの話でいう、多数のパラメータを考えたときに、それをまずはどう伝えるかという点に繋がります。社会が向かっていく特定の方向をAIが分析したとして、「社会はこのままいくと、こうなっていきそうだぞ」という点について、どう伝えていくかが重要になってきます。これについてはどう考えれば良いのでしょうか。

松尾 前提条件の共有が、やはり一番難しいのでしょう。それがある意味で、科学技術を少数のパラメータに向かわせた要因になっていると思います。前提条件の共有が難しいのは、例えばデザインの教育や設計が難しいことにも関係しています。これらは全部、前提条件がすでに非言語なのです。そのため、前提条件からのステップをどう体系化しようとしても、そもそも多次元なので、体系化が難しいのです。ですから、そうした構造を理解した上で考えれば、やりようもあると思います。前提条件を共有する方法は、前回お話した映画を一緒に見る例のように、いろいろあります。

 さらにいえば、そうして学習されたモデルを人に伝える際には、どうしても言語的なものが過敏になるので、やり方を考えなければなりません。映画を一緒に見る例からも分かるように、何かの前提条件を共有した上での議論が重要になってきます。


●AIで見つけた重要なパラメータを実際の改良につなげることが重要


柳川 だから、多数パラメータで何かを説明し、起きている状況を他の人にも共有し、それを広めていく方法を考えることが、新しく必要とされているステップなのだと思います。先ほどの共有や前提条件の理解は、今までの科学にはなかった新たな現象なのでしょう。そこを探求していくことが必要だと思います。

 これとは別に、経済モデル的に重要な点もあります。多数パラメータを考える際には、全てのパラメータが該当することになりますが、ある意味では、その中で今まで気がつかなかった重要なパラメータを見つけてくることも大事な作業です。つまり、無限に近いパラメータによって分かったことをそのまま伝えるより、例えば「今までこの10個しか見てこなかったのですが、AIで調べてみると、560番目と1030番目のパラメータが実はすごく効いていました」というようなことが考えられるので、それを理論モデルや現実の世界の改良につなげていくことが、結構重要な気がするのです。


●マクロな経済現象は、状態変化も考慮に入れる必要がある


松尾 ディープラーニングで学習されているモデルで考えると、基本的にはある特徴量がさらに高次の特徴量を作り、そこが被説明変数に効いていることが分かります。あるいは、それがまたさらに高次の特徴量を作って、そこが効いているという、多層な構造ができています。逆にいえば、入れた情報がそのまま効いているということは、あまりありません。むしろ、生データを結構たくさん入れてしまうと、相当加工度を上げない限り、効いてこないということがあります。

 さらに、時系列のデータだと顕著なのですが、やはり状態空間が変わるということも重要です。同じ入力がなされても、状態によって出力するものが変わるということです。言語のモデルや翻訳のモデルも、そうした条件を使いまくっています。だから、経済現象もおそらく同様のことがいえるはずです。同じ入力だったとして、例えばコーヒーが飲みたくなるかというと、直前にコーヒーを飲んでいればもう飲みたくならないかもしれないし、しばらく飲んでいなかったら欲しくなるかもしれない。だから、もっとマクロな経済現象でも、そうした状態というものはあるはずですが、その状態の定義がやはり難しいのです。

柳川 そうですね。

松尾 これについてはやはり、どちらかというとデータ・ドリブンで行っていったほうが良い面が結構あるのではないかという気がします。


●変わっていく経済現象の中で過去のデータをどこまで重視するか


柳川 はい。だからその点は、経済学的には非常に大事な話です。データ・ドリブンで分析する際には良い部分もありますが、データは結局過去のものです。そのため、過去と同じことが今日や明日も続くのであれば、過去に出てきた特徴量や相関関係がその先も続くと想定できるので、学習内容が十分意味を持ちます。おっしゃるように、経済は変わっていきます。そのた...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。