●肉を「育てる」時代から「作る」時代へ
―― 皆さま、こんにちは。本日は竹内昌治先生に培養肉についてのお話をいただきたいと思っております。竹内先生、どうぞよろしくお願いいたします。
竹内 よろしくお願いいたします。
―― 今日はまさに先生の研究室からお届けさせていただくということなのですが、まず、そもそも培養肉とはどういうものかというところからお聞きしたいと思います。
ニュースなどでも先生の研究などがいろいろと取り上げられており、食べられるようになったという研究も出ています。その半面、例えば大豆ミートなど肉に代わるものもいろいろ出てきていると思うのですが、その中で先生が研究されているのはどういうものになるのでしょうか。
竹内 今、食肉はだいたい3世代目に僕らは入ってきていると思っています。
では1世代目は何だったかというと、いわゆる狩猟の時代で、お肉を食べようと思ったら狩りに出かけて、狩りが成功したらお肉にありつけるという時代だったわけです。
そうして、だいたい2万年くらい前から毎日お肉を食べていきたいという状態になったので、家畜の文化が出てきました(2世代目)。それが現代でもまだ続いているのです。ただ家畜の文化がこれ以上拡大することがなかなか難しいだろうという状況になっているのです。
―― それはどうしてですか。
竹内 それは後で申し上げるのですが、例えば環境の問題とか、あるいは動物福祉の問題とか、安全性の問題とか、いろいろな要素が組み合わさって、さらにこれから人口増加に伴ってどんどん(食糧を)拡大しなければいけないという中で、家畜がなくなるということはおそらくないと思いますが、そうしたことがなかなか難しい課題として直面しているという状況が現在あるのです。
家畜が増えないのであれば、お肉をみんなで食べなくすればいいだろうというチョイスが1つあります。あるいはタンパク質をお肉に代わる別のものから摂っていこうということで、例えば大豆ミートとか、あるいは昆虫食とか、そういうものが今、市場には出てこようとしているのです。
一方で本物のお肉を忘れずに食べていきたいという人は、例えば動物から取ったお肉そのものを食べられなくても、それに代わるお肉そっくりなものを食べていきたいというような選択肢もまだあるでしょう。そのためには、例えば細胞を培養してお肉を形成していくというような培養肉のアプローチもあるのではないかといわれています。
それがいわゆる3世代目です。お肉は育てる時代から作る時代に変わってきているということで、僕らは培養肉の研究を行っています。
●味や食感を本物に近づける「フェイクミート」の成熟期は近い
―― 3世代目になって「(お肉を)作る」といった場合に、今、細胞からお作りになるというようなお話もされましたけれど、いろいろな種類というのはあり得るのですか。
竹内 いろいろな種類というのは、いろいろな動物種ということですか。
―― (例えば)培養の方法など。
竹内 培養の方法としては、基本的には、培養液に浸けると増える細胞ですと、どんどん増えていきます。それから、例えば、筋肉を作ろうとしたときに培養液のコンディションを変えますと、1つ1つの細胞が融合して筋繊維ができてきて、筋肉が出てきます。その環境をどういう培養液の中でやるかとか、あるいはどういう足場、環境の中でやるかということで、いろいろなベンチャー企業や研究機関が各種の方法をそれぞれ提案しているという状況です。
―― 現在のお話としてお伺いすると、完成形が100だとすると、今はどのあたりまでというご感触なのですか。
竹内 何をもって完成形とするかということで、だいぶ答えが変わってくると思います。例えば、売れるお肉を作ろうとか、おいしいお肉を作ろうと思ったときに、本物のお肉である必要はなくて、おいしく食べたいなと思うお肉を作っていこうというアプローチがあります。
これは、カニとカニカマでよく喩えられると思います。カニカマを作ろうと思ったときに別にカニを作る必要はないし、カニの細胞を取ってくる必要もなくて、カニっぽいものをいかに食品添加物や味付けによってうまく食品として完成させるかというところがポイントになってきます。カニカマ市場は今すごく人気で、むしろ本物のカニよりカニカマのほうが好きだという人もいるくらい大きな市場になりつつあるということで、ビジネスとしては展開できると思います。
それをゴールにするのであれば、今はフードテック市場とか、あるいは「フェイクミート市場」とも呼ばれるのですが、細胞を使ってい...