●培養肉の作り方:増殖能のある細胞を筋肉から取り出す
―― 次に、実際に培養肉はどうやって作っていくものなのかという話をお伺いしたいと思います。
竹内 実は2013年にオランダのマーストリヒト大学のマーク・ポスト先生が世界で初めて培養肉バーガーというものを作ったのです。それをロンドンで試食をされたのですが、その時のやり方からまずご説明します。
まず、動物の命を奪わないということを理想としていますが、細胞ソース自体は動物からいただかないといけない。ということで、「バイオプシー」という方法があるのですが、細い針を牛のお尻にブチッと刺します。
針を抜きますと、その針の中に肉片がちょっとだけ入っています。それが、例えば数グラムくらいの肉片です。それをバイオ液に入れたら、その肉片がどんどん大きくなってくると思われる方も結構いらっしゃるのですが、そういうことは実はありません。
筋肉の断片の中に、筋肉が切れたり炎症を起こしたりしたときに、その炎症を起こしてダメになった細胞に置き換わって筋肉になっていくような、筋肉の元となる細胞がいくつか存在しています。これが本当に数えるくらいしか、その数グラム中にはないのですが、それだけを取ってくるのです。
その細胞をバイオ液に浸ける。そうすると、増殖能がありますから、たくさん増やすことができるのです。
―― 例えば、人間の身体なども食べ物を取り込んで、相当なスピードで書き換えというか、入れ替わりが進んでいるのだというお話をされる方もいますけど、実際、生き物というのはそういうものなのですか。
竹内 細胞が置き換わっている部分、代謝がすごく激しい部分と、そうでない部分というのがあるので一概にはいえないのですが、筋肉に関しては、筋肉に炎症が起こったときにピッとスイッチが入って、筋肉の細胞になって筋組織を作っていくというような「筋芽細胞」というものがあったりするのです。その細胞だけを取り出してくるのが、まずは1つのテクニックです。
それをたくさん増やして、お肉としてハンバーガーのように整形していくわけです。それを食べましたということなのですが、その当時、2013年でコストはだいたい3800万円くらいかかりました。
―― 「万円」なのですね(笑)。
竹内 3800万円ですので、超高級なスポーツカーも買えてしまうというような状態が1個で、2013年では笑い話に近いことだったのですが、彼が立てたベンチャーがあり、それがあと数年で培養肉バーガーを売り出そうとしています。1個だいたい13ユーロくらいで売れるのではないかといっていますので、コストは今すごく下がってきています。
彼の見積もりでいきますと、例えば培養肉というのは別に牧場で作る必要がなくて、都市に工場を建てて作るということもできるわけです。なので、「地産地消」ができるというのが1つの売りなのです。そこで、ある培養肉工場のようなところで4万人が常に食べるというような試算をしますと、だいたい1キロ当たり600円くらいの値段までコストを削減することができるという数値が出ています。なので、高いと思われていた培養肉も技術とともにどんどん安くなって、われわれの手が届く価格になってくるのではないかと思っています。
●独自のシートを用いた、本物の肉と同じような筋線維を作る試み
―― 今、最初のハンバーガーの事例をお聞きしましたが、先生の研究もそれと同じ形になるのですか。ちょっと違ってくるのですか。
竹内 培養肉は、実はひと言でいってもいろいろなタイプが存在しています。マーク・ポスト先生が作られたようなしっかりしたミンチ肉もあるし、もっと簡単に作った培養肉もあります。あるいはもっと難しい培養肉もあったりするということで、ここでは簡単なところから説明していきます。
例えば、細胞を培養して、それをゼリーのような足場の中にポタポタと分散させるのです。そのゼリーは、代替肉、大豆ミートと同じような足場で、その中に細胞を混ぜていきます。なので、味そのものは大豆ミート由来の味、作り込んだ味というのが出るけれど、その中に細胞が入っているので、これを「培養肉」と呼びましょうというような作り方です。
これは、すごく簡単というと(そういうと少し語弊があるのですが)、細胞を取ってきて大量に培養するのです。この問題をクリアすることができれば、あとは大豆ミートと同じような作り込みで、細胞を混ぜたものを作り込みます。これが多分一番簡単な培養肉(の作り方)なのではないかと思っていますし、ここから先は想像なのですが、今いろいろと上市されているような培養肉も、まずはそこから販売が行われるのではないかと思いま...