●連続的な活動電位の発生が情報を表現する
次に、ニューロンの詳細な構造を見ていきたいと思います。
ニューロンはもちろん細胞なので、他の細胞と同様に細胞体があって、その中に核が含まれていて、ここに遺伝情報があるわけです。ニューロンが特徴的なのは非常に微細な突起をたくさん持っているということです。この突起は「樹状突起」と呼ばれていて、この突起で他の細胞からの情報を集めています。この情報が細胞体部分で統合されて、その情報が「軸索」と呼ばれる電線を伝って、他の細胞に情報を伝えていきます。この軸索の一番どん詰まりのところで、電気信号を化学信号に置き換えて、次の細胞に情報を伝達していくわけです。
ニューロンが特徴的なのは、電気を発生するということにあります。このニューロンの電気活動を電極で測ってみると、入力が小さいときには電気活動は起こらないのですが、十分大きな刺激が入力されると、このように特徴的なトゲのような電気活動を示すことが分かっていて、これを「活動電位」といいます。
この活動電位というのは、他の呼び方では「神経インパルス」といったり、「膜興奮」といったり、また研究者の間では「発火する」とか、もしくは靴の裏に付いているトゲのような形をしているので「スパイク」ということもあります。このニューロンの活動電位は2、3ミリ秒で上がって下がるという非常に特徴的な形をしていますが、これは1発で終わるわけではなくて、いくつか連続して発生することで情報を表現するといわれています。
「神経は電気を発生する」と言いましたが、このように発生する電気はコンセントからくる電気とは少し性質が異なります。なので、正確には「電気的活動」といいます。実際、神経線維に電気を流してみても、金属ほどは導電効率が良くないのです。ところが、金属の導電と違うのは、全く減衰することがないということです。金属に電気を流したら途中で減衰してしまうのですが、脳神経の場合は、脳で発生した電気信号は必ず最後まで減衰することなく届きます。したがって、電線とは異なる仕組みで信号を伝えていると考えることができます。
この仕組みを担っているのは、「膜電位」と呼ばれるものです。膜電位とは細胞膜を挟んで生じる電圧のことで、電圧とは電気を流す能力の大きさのことです。全ての細胞は「細胞膜」と呼ばれる構造からできていて、細胞の内側と外側で電気を流す能力が変化しています。
膜電位は、別に脳細胞だけではなくて、全ての細胞が持っています。例えば、微生物のゾウリムシが鞭毛を打つ方向を制御したり、植物のオジギソウが閉じたりするのも膜電位を使っているといわれており、この膜電位変化は、単細胞生物や植物細胞にも広く存在する生物共通の基本原理ということができます。
●活動電位はイオンの移動によって発生する
ニューロンは、エネルギーを使ってイオンを出し入れすることによって、細胞の外側にナトリウムが多い状態、細胞の内側にはナトリウムが少ない状態を作っています。また、カリウムを取り込むことによって、細胞の中にカリウムの多い状態、細胞の外にはカリウムイオンが少ない状態を作り出しています。このように、イオンバランスがアンバランスになっているのですが、これがニューロンにとっては、エネルギーを使ってわざわざその状態を作りだして、静止膜電位を保っている状態になります。
ここに、ひとたび入力が入ってくると、細胞の膜の上に存在しているタンパク質の一種である「イオンチャネル」というものが開き始めます。イオンチャネルには複数の種類があります。
例えば、ナトリウムイオンチャネルは、ナトリウムイオンだけを通すことができるチャネルになっています。なので、入力が入ってくると、ナトリウムチャネルが少し開くわけです。ナトリウムイオンは内側が少なくて外側が多い状態ですから、そのバランスを解消するために外側から内側に向かって流れていきます。このときに膜電位が上昇します。この状態を「脱分極」といいます。
脱分極が進むと、さらにイオンチャネルが開いて、どんどんナトリウムイオンが入ってくるので、一気に膜電位が上昇する状態になります。これが、活動電位がスパイク状になる理由の一つです。