●性とは遺伝的な多様性を子孫につくりだす方策
── 本日は長谷川眞理子先生に、「ヒトの性差とジェンダー論」ということでお話をいただきたいと思っています。長谷川先生、よろしくお願いいたします。
長谷川 どうも。よろしくお願いいたします。皆さん、よろしくお願いします。
―― 最初に、先生が問題提起としてお書きくださっていますが、昨今「LGBTQ」ということで、いろいろ性の問題というものが社会問題としても大きく浮上しています。一方で、いわゆる生物学的な見地から見た「性差」とはどういうものなのか。それが具体的に、あるいは社会的に考えたときにはどうなるかということについて、今日はぜひお話をうかがっていきたいと思います。
長谷川 はい。
―― ボーヴォワールの有名な言葉に「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」という言葉があったりいたしまして……。
長谷川 まったく反対ですよね。正反対ですよね(笑)。
―― そのあたりのことも含めて、では生物学から考えるとどう社会が見れるのかということで今日はお話を伺ってまいりたいと思います。
長谷川 はい。
―― そうしますと、まずそもそも性とは何かというところでは、どういうことになりましょうか。
長谷川 私たちは哺乳類で、体に何個も細胞がある多細胞生物です。性というと繁殖(生殖)と合致したものと思われがちですが、性の起源をたどると、性というのは別の個体と遺伝子を混ぜ返して、自分の子孫に違う遺伝子構成を持たせるのが有利だったということです。
同じものを分裂していくと、全部が芽を出したとしても、全部同じものです。そうではない多様性をつくるほうが有利だったということで始まったので、性と繁殖(生殖)は本来別のものなのです。
なので、「性とは何か」といったら、それは遺伝的な多様性を子孫につくりだす方策です。
―― なぜ多様性を持ったほうが有利になるのですか。
長谷川 それは、次から次と世代が変わった後に、どんな環境になるか。(例えば)子どもが水に乗って流れて行って生まれた先やたどり着いた先などには、どんな環境があるか。親とまったく同じであることは少ないのです。
分裂をいかにたくさん行って、1000個の子どもを作ったとしても、全部同じだとすると、うまくない環境に行ってしまうと一網打尽で全...