●内部生殖器を決定するプロセス
── そのような性の問題については、「では、性がどのように決定されていくのか」というお話を先生にお聴きしたいと思います。いかにして、特に哺乳類の場合、性が決まっていくかというところをお願いします。
長谷川 哺乳類は本当に難しくて、もともと哺乳類は全ての個体が、何もなければ雌になるというのが、デフォルトとしてつくられています。ですので、先ほど(第1話で)ボーヴォワールは「全然反対だよね」と言ったのは、「女としてつくられる」のは社会的にはそういうところはありますが、生物学的に哺乳類は全部、原型が雌型だったのです。
それが、ご存じのように、XYという性決定遺伝子のうち性染色体のYを持っていると、雄のほうに変わるわけです。これはYがありさえすればいいわけではなく、Y染色体の上にSRYという遺伝子があり、受精卵の初期にそのSRYが働き始めると、一連の作用が起こって、ホルモンが出てくる。本来、ただそのままにしておいたら雌になるものを雄につくり替えていくわけです。
例えば、受精卵の初期のときには、XX個体にもXY個体にも、どっちにもなれる未分化な生殖器を備えています。何もなければ、それが卵巣になるので、雌になります。しかし、発生の初期にSRYが働くと精巣になって、テストステロンが出ると、未分化なものを雄化するように進むわけです。
最初はミュラー管とウォルフ管という両方を備えた未分化のものです。何もなければ青いほうのウォルフ管という精巣・精管になるべきところが消えていて、赤いミュラー管と卵巣に自然になります。
SRYがあって、そのSRYの遺伝子が周りの組織に働きかけると、青いほうのウォルフ管が残って、その先端にあるのが精巣になるわけです。
しかし、それだけではなく、今度はウォルフ管が精管になり、最初は原基であった元のタイプが精巣になればいいのだけれど、哺乳類は「雌になるようにできている」というところが非常に強いので、本当に雄にするには、ミュラー管のほうを消さないといけない。(つまり)テストステロンが働きかけることによってウォルフ管のほうで精管をつくるだけでは両方になってしまうから駄目で、本...