●専門の雄と専門の雌の作り方には二通りある
さて性が、雄は雄、雌は雌に固定されているものでも、専門の雄と専門の雌の作り方には二通りあります。
一つは環境決定です。ワニやカメは、卵が孵化する温度が高いと雌になったり、その温度が低いと雄になったりと、環境の温度によって性別が決まります。これはずいぶん不安定で怖いと私は思ってしまいます。「たまたま暖かいところに行って、みんな雌になったり、(あるいはその逆で)みんな雄になったりしたらどうするの?」と思いますが、いろいろな温度差があって、全体としてはうまくいっているようです。
一方、そうではないものに「性染色体」があります。XかYか、ZかWかなどいろいろありますが、性染色体の組み合わせによって雄になるか雌になるかが決まる動物は結構多いのです。多くの昆虫がそうです。
鳥は、(性染色体)ZZが雄で、ZWが雌です。哺乳類は逆に、XXで同じ染色体があると雌で、XYだと雄になります。
進化生物学者はどうしてこれが進化するのかを研究します。性はすごく大事なので、どの生物も全てXXとXYというようにスパっと決まっていると思っていました。しかし、実際には全くそうではなく、例えば「メダカなら、この性染色体」というように、どの生物がどのように性染色体が決まって、どのように成長するのかは、全て同じではありません。
このように、性決定は本来進化的にすごく複雑な話で、今の生物学では、単純には説明できないことが分かってきました。
ここまでの結論として、性はもともと繁殖の手段ではなく、自分の遺伝子を変えて多様性を創出する手段として進化したということです。
子孫の遺伝子に多様性を持たせることを目的とする、つまり自分自身を変えるのではなくて、子孫の遺伝子を違うものにするために、繁殖と性がどこかで結びついたのです。そして、栄養がある卵と、栄養がない精子に分化しました。さらに、はじめから自分は卵しか作らない雌と、精子しか作らない雄という個体が生じたのです。
しかし、はじめから雄か雌か決めてしまうかどうかは、今言ったように性転換などいろいろあるので単純なことではありません。
●哺乳類の基本構造は雌である
その中でも私たちは哺乳類です。他の生物を見ると本当にさまざまありすぎるので、ここでは哺乳類の話に限定します。
ヒトは哺乳類ですが、実験の動物ではラットやマウスがとてもたくさん研究に使われています。ラットやマウスと私たちとではすごく違うと思われるかもしれません。ただ、実験動物で研究されて分かってきたことですが、生命の仕組みにおいては、ずいぶん同じようなことが多いのです。つまり、ラットやマウスの発生についてはヒトの発生とも非常に近い仕組みになっているので、その研究結果は参考になるのです。
ここで非常に大事なのは、どの哺乳類も全て基本設計は雌だということです。何も起こらなければ全て雌になるように遺伝子が設計されています。先ほど言ったように、染色体がXXなら雌で、XYなら雄になりますが、XX、XYにかかわらず、最初に卵が受精したときは雌です。つまり、基本設計は雌なのです。
●雌を雄に作り替えるスイッチを入れる「SRY遺伝子」
そのため、胎生の何週目かにだんだん分化してできてくるときの、もともとの生殖器の原基はどちらにもなれます。つまり雌にも雄にもなれるのです。それがXYだったら雄につくり替えていくのですが、そこで重要なのがY染色体です。
Y染色体はすごく小さくて、大した遺伝子(情報)はほとんど載っていません。Y染色体がある一番重要な理由は、「SRY」という遺伝子があることです。SRYという遺伝子が、雌のものを雄に作り替えるスイッチを入れます。Y染色体があれば、それが働いて雄になりますが、XYの性染色体構成でも、YにSRYがうまく載っていなかったり、働いていなかったりすると、染色体自身はXYであっても、もともとのデフォルトは雌なので、そのまま雌になります。
そのため、染色体の検査だけだと「XYなので、男の子です」と判断することになるのですが、そうではなくSRYがうまく働かないと、雌になることもあり得るのです。
つまり、哺乳類は染色体がXYだと、もともとの雌を雄に作り替えることになります。それをしているのが、Y染色体上の「SRY遺伝子」です。その作り替えをいつ始めるかというと、胎児の初め頃です。
胎児の初期、つまり本人が(この世に)生まれるよりずっと前の、お腹にいる数週間でだんだん分化して体ができてくるときに、雌であるも...