●クジラやイルカにある「浮いた骨」の正体は骨盤の名残
では、骨を見ながらいろいろと勉強したいと思います。
これはハンドウイルカというイルカの骨なのですが、頭からしっぽの骨です。頭の方からずっと見てくると、ここ(しっぽのほう)に空中に「浮いた」骨があります。皆さん、これは何だと思いますか。
これはハンドウイルカだけではありません。こちらの骨も見てください。例えば、これはガンジスカワイルカなんですが、このイルカのここ(しっぽのほう)にもあります。
上に吊ってあるのはツノシマクジラというヒゲクジラですが、その個体にも浮いた骨があります。
ちょっと奥の方にセミクジラがあるのですが、分かりますか。そこにもぶらさがっている骨があります。
皆、クジラはこういう骨を持っています。これは何かというと、実は骨盤の名残になります。なぜこういう骨があるのでしょうか。例えばこちらに四足動物の骨がありますが、普通われわれも含めて、脚があって脚と体をつないでいるのが骨盤になります。
つまり皆、大体骨盤を持っていますが、イルカたちは進化の過程で脚を退化させ、尾ビレで動くことを選択したので、脚はいらなくなってしまいました。そうすると、体と脚を連結させる骨盤はだんだんその機能を失ってしまって、だんだんこのように「浮いた骨」の形になってしまった、というのが正解になります。
●脚が退化しても骨盤として残っているのは内臓との関係を保つため
では「だったら骨盤(浮いた骨)はなくせばいいじゃない。もういらないじゃないか」と思う方もいるでしょうし、「なぜこんな形でもまだあるんですか?」と思う方もいるかもしれません。そう思うのももっともです。ただ、脚と体の連結という機能はなくなったのですが、実は彼らのお腹の中には内臓があるので、そうすると、内臓と骨盤の関係は保っているのです。つまり、ちゃんとした骨盤の機能は残ってはいないけれども、内臓との関係はしっかり残っているので、あのような「浮いた骨」という形でも骨盤として残すべくして残している、とわれわれは考えていますし、今のところそういう説が有力になっています。
なぜか。陸の哺乳類には、骨盤を貫いて肛門があります。メスだったら膣があり、その中には子宮があります。というように、お腹の中に内臓があるわけです。そうすると、彼ら(クジラやイルカなど)もその辺りに子宮を持っており、直腸、肛門、生殖孔があるというように、お腹の中はわれわれと同じ構造をしているのです。つまり、脚との連結はなくなったけれど、お腹の中の構造は一緒ということで、しっかりと骨盤を残しているのです。ただ、形は変わってしまったということです。
以上が正解なので、もし博物館に行ってこういう標本を見たら、そういうことに思いをはせながら見ていただくというのも、もう一歩踏み込んで標本を見ることができるかなと思いますので、ぜひそうやって見てください。
●なぜクジラやイルカの舌骨は人間やゾウよりも太くて大きいのか
また舌骨も興味深いので、少し説明します。
われわれ人間やゾウなどの舌骨は細いのですが、クジラやイルカなどを見てもらうと、舌骨が非常に大きいことが分かります。このイルカはせいぜい体長2~3メートルくらいですが、しっかりとした舌骨があって、ゾウの舌骨より太くてしっかりしたものが付いています。これはなぜでしょうか。
彼らはエサを食べるときに、舌骨と胸骨に付いている筋肉を収縮させます。収縮させると舌骨が引っ張られて、口がカポンと開きます。そうすると、口の中が陰圧になって水ごとエサが入ってくる。いわゆる吸いこみ摂餌をするのです。いつもスーッと吸っているだけと大変なので、舌骨と胸骨に付いている筋肉をすごく発達させて、その筋肉をキュッキュッと収縮するだけで口がカポンカポンと開くようにしたのです。そのために舌骨が非常に大きくて立派だといわれています。
もう1つ説明します。これはハクジラの中のツチクジラという種類なのですが、歯が左右2対しかありません。非常に歯が少ないので、エサを取りたくてもなかなか取れないのです。でも、彼らはちゃんと生きているので、そこには何かしらの理由でエサを取っているわけです。
では、どうやってエサを取っているかというと、ここで先ほどから説明している舌骨が生きてくるわけです。舌骨の筋肉を収縮させながらエサを吸いこんで食べているということです。
ということで、この舌骨に関してもぜひ陸と海の哺乳類を...