●哺乳類の基本的な特徴
こんにちは。私は国立科学博物館動物研究部の田島木綿子と申します。私は博物館では海の哺乳類の標本を担当していて、海岸に打ち上がる「ストランディング」という現象にもろもろ携わりながら、標本を使ったり研究をしたりと、いろいろなことをしています。
今日はそうしたストランディングの活動の中で、まず一番基本となる海の哺乳類というのがどういう生き物なのだろうということをお話しいたします。よろしくお願いいたします。
まず、スライドを見ていただきたいのですが、2019年3月21日から6月16日まで海の哺乳類を含めた『大哺乳類展2』をやっていました。その副題が「みんなの生き残り作戦」ということで、どうやって哺乳類が今までの進化の過程、あるいはその歴史の中で、いろいろな作戦を生み出して生き残ってきたかということについての展示を行いました。今回のシリーズでは、それにまつわるお話をしながら、海の哺乳類がどうやって今まで生き残ってきたのかということを、お話しします。
まず、「海の哺乳類」といいますが、「哺乳類って何?!」ということをお話ししたいと思います。
例えば、教科書的な情報でいくと、上のスライドでご覧いただいているようないろいろな項目が列挙されます。そうすると、皆さんが一番ご存じなのはこの分類群の名前(哺乳)になっているように、お乳を出して育てるということがとても大事になります。あとは、胎生や肺呼吸などが、全て「哺乳類だ」という証になるということで、そうした体の構造だったり特徴があったりします。
もう少し具体的にいうと、なぜか哺乳類は首の骨(頸椎)の数が7つという法則があります。例えばイルカは、体を見てみると「どこに首があるのか」というくらい首が分かりにくい動物なのですが、スライドの青で示しているところにしっかりと首の骨があります。さらに実際に骨を見てみると、形は少し変わっているのですが、その数はちゃんと7つあるということが分かります。
一方、同じ哺乳類であるキリンはどうでしょうか。リンの首は長いのですが、その首の骨の大きさは1個1個大きいのですが、数はちゃんと7つあるのです。。
このように首が分かりにくい、または首が長い動物であっても、首の骨(頸椎)の数は7つという規則にしっかりと則っているということで哺乳類であると分かることもあるのです。
●海の哺乳類は系統的にはバラバラ
これは随分前に『nature』誌に載った論文の系統樹の一部を引用しているものです。これは現在、知られている全体の系統樹です。海の哺乳類といわれているものは大きく3つに分けることができます。1つ目は「鯨目」で、クジラやイルカです。2つ目は「鰭脚(ひれあし)目」で、アザラシやアシカなどが含まれます。3つ目は、ジュゴン、マナティという「海牛目」です。
この系統樹で何を示したいかというと、海の哺乳類は実は系統はバラバラで、たまたま海に戻った、たまたま海で棲息しているものを集合させて、そう呼んでいるのです。ですから、それぞれ系統は違うということを、この系統樹で分かっていただけたらと思います。
ちなみにヒトはこの図に入っている(下のほう)ので、われわれヒトも同じ哺乳類だということが、この系統樹からも分かります。
●一度陸に上がってから再び「海に戻った哺乳類」
もう少し詳しくいうと、先ほどお話ししたようにクジラ、イルカの鯨目、アザラシ、アシカの鰭脚目、ジュゴン、マナティの海牛目がいるのですが、最近、鯨目は陸の哺乳類の偶蹄類と同じ特徴をいろいろと持っていたり、同じ共通の祖先を持っているということが分かってきました。分類名も「鯨偶蹄目」と呼ぶほうがいいというのが今の主流になっているので、最近の教科書では「鯨偶蹄目」という分類名を使っていることが多いと思います。
また、「海に棲んでいる哺乳類」と書いて「海棲哺乳類」なのですが、もう1つ「海に戻った哺乳類」という言い方もできるのです。彼らは一度陸に上がって、その一部がもう一度海に戻って哺乳類を継続している、と考えられているので、そうした観点から、例えば進化に関することが好きだったり、系統に関することが好きだったりする方の中には、この「海に戻った哺乳類」というキーワードで研究している方もたくさんいます。
●海の哺乳類の中で唯一の草食性-海牛目
一つ一つ説明を加えると、海牛目は残念ながら日本の周囲にはジュゴンの1種類しかいません...