●生物学的にみた普遍的な身体の性差とは?
―― (性差の構造が)まことに難しい中で、あえていうとすると、身体的な性差なり、いわゆる生物学的な性差というのは、どの範囲までは間違いなくあるのでしょうか。ここは多分、生物学的な性差だというのは、どの範囲になりますか。
長谷川 そうですね。男性のほうが女性よりも平均値で体が大きいというのは、たぶん文化ではなくて、哺乳類のほとんどがそうです。いつも男性のほうが大きいのです。
昔、1980年頃のフェミニストの誰かが「女の人のほうが体が小さいのは、どの文化でも女子にはまずいものしか食べさせないからだ」と言ったので、私たちはギョエーッと驚きました。「だったらシカもネズミも、みんなまずいものしか食べさせてもらっていないのですかね。そんなことないでしょう」という話をしたことがあります。
本当にそんなことはなくて、哺乳類はだいたい雄-雄コンペティションが強いので、雄の体が大きいほうが有利だということが基本にあるので、大きいのです。ただ、人間の場合は、その性差はあまり大きくないのです。先ほどのアザラシやアシカなど、雄は雌の7倍も10倍も大きいのです。人間は1.1から1.2倍ぐらいなので、それほど差がない。それは、タヌキと同じように男の人も育児に関わらなければいけないし、みんなで共同作業で同じようなことをしないと生きていけない。だから、そんなに男だけが大きいということはない。でも、この差は多分あります。
それから、男性のほうがヒゲやいろいろなところで毛深いのです。女性のほうがつるっとした滑らかな肌をしている。これも文化がつくっているのではなく、どの人種の、どの文化も、どの歴史でもそうです。ただし、男性が毛深いのをよしとするか嫌がるかは、文化によります。
アラブではみんながヒゲを生やすでしょう。それで、紀元前何世紀かのローマの文書に、「昨今の若い男はヒゲを剃って、甘っちょろくて嫌だ」と書いてある。だから、中東ではずっと、たくさんヒゲを生やすのが男っぽいという文化があった。それが、ローマ・ギリシャのあたりで、剃ったほうがいいということになったらしい。それを、(歳)上のおじさんたちが「あれは女っぽくて嫌だね、最近の子は」と(いっている話が)書いてあるわけです。ですから、それをどう見るかは文化です...