進化生物学から見た「宗教の起源」
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
私たちにはなぜ宗教が必要だったのか…脳の働きから考える
進化生物学から見た「宗教の起源」(1)宗教の起源とトランス状態
長谷川眞理子(総合研究大学院大学名誉教授/日本芸術文化振興会理事長)
宗教の起源について、進化生物学はどう考えるか。イギリスの自然人類学者ロビン・ダンバーの著書『宗教の起源』によると、宗教はヒトにとって普遍的な現象であり、そこには脳が大きな役割を果たしているが、文化の影響も否めない。特にダンバーは新皮質の容量に注目し、「ダンバー数」と呼ばれる、集団としてヒトが気持ちよく維持できる人数を発見した。そこで今回はダンバーの著書を手がかりにしつつ、脳の役割と文化への影響を踏まえ、神秘思考、宗教的回心、古い宗教の一つであるシャーマニズムなどの解説を進めながら、「宗教とは何か」という難しい問題に迫っていく。(全3話中第1話)
時間:15分09秒
収録日:2023年12月20日
追加日:2024年1月30日
≪全文≫

●友人ロビン・ダンバーの研究と「ダンバー数」の発見


 こんにちは、長谷川眞理子です。今日は、「進化生物学から見た宗教の起源」というタイトルで、少しお話をしたいと思います。

 昔からそういうことを考えてはいたのですが、ロビン・ダンバーという人の本が2023年に白揚社から『宗教の起源:私たちにはなぜ神が必要だったのか』として(翻訳)出版されました。“How Religion Evolved”だから、まさに「宗教はどう進化したか」という本です。私は巻末にちょっとした解説を書いています。

 ロビン・ダンバーという人は私も個人的に友人で、ずいぶん長い付き合いですが、イギリスの自然人類学者で霊長類学者、また進化心理学者です。私もそうですが、もともと野生の霊長類の行動と生態を研究していて、彼は「ゲラダヒヒ」というエチオピアの高原にいるサルたちを研究していました。その頃から知ってはいるのですが、(私が)イギリスに行っていた間は、いろいろとお世話になりました。

 彼はその後、霊長類を観察するにとどまらず、人類学者として人類の進化の中で何が一番大事かと霊長類の行動と人間の行動を見比べると、脳の働きや心理などのところが非常に違うのでそこを解明したいということで、霊長類の行動生態学者から人類学・進化心理学に行った人です。

 彼の一番の業績についてですが、まず霊長類の脳で外側に新しくできた部分である新皮質の容量を調べました。その大きさは、霊長類が互いに知り合い、誰が誰でどういう関係なのかなどを理解して素直に付き合える範囲によってサイズが決まると考えました。それで、霊長類の新皮質の容量を測り、そのような脳容量を持った霊長類が自然に維持できる集団のサイズを計算したわけです。

 その延長として人間の新皮質を考えた彼は、「ヒトは大体150人が気持ちよく維持できる集団だ」ということを発見しました。そのことは「ダンバー数」と呼ばれて有名になっています。そういうことを研究して発見した彼が宗教について書いたのが今回の本です。

 この(脳の)図は、左側が前の方、右側が後ろの方で、真ん中で切ったものです。一番上のところが新皮質です。


●宗教とは何か――遺伝的進化と文化の進化から考える


 さて宗教につ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「科学と技術」でまず見るべき講義シリーズ
ChatGPT~AIと人間の未来(1)ChatGPTは何ができて、何ができないか
ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは
西垣通
五島列島沖合の海没処分潜水艦群調査(1)目的と潜水艦史
海底に突き刺さる旧日本海軍の潜水艦「伊58」を特定!
浦環
水から考える「持続可能」な未来(1)気候変動の現在地
最悪10メートル以上海面上昇…将来に禍根残す温暖化の影響
沖大幹
生成AI・大規模言語モデルのしくみ(1)生成AIとは何か
10年で劇的な進歩を遂げた生成AIと日本の開発事情
岡野原大輔
断熱から考える一年中快適で健康な住環境(1)日本の住宅の実態と問題点
なぜ日本は夏暑く、冬寒いのか…断熱から考える住宅の問題
前真之
進化生物学から見た「宗教の起源」(1)宗教の起源とトランス状態
私たちにはなぜ宗教が必要だったのか…脳の働きから考える
長谷川眞理子

人気の講義ランキングTOP10
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(2)秀吉の実像と「太閤神話」
秀吉・秀長の出自は本当は…実像は従来のイメージと大違い
黒田基樹
平和の追求~哲学者たちの構想(6)EU批判とアメリカの現状
理想を具現化した国連やEUへの批判がなぜ高まっているのか
川出良枝
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾
津崎良典
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
組織心理学とは何か~『武器としての組織心理学』と概論
なぜ組織に「心理学」が必要か?多様化と個の時代の処方箋
山浦一保