●農耕・牧畜・定住・階層社会と「高みから道徳を説く神」
先ほど(前回)お話ししたように、宗教の起源を探るとアニミズムが一番古く、シャーマニズム、祖先崇拝、死後の世界への信仰、特定の場所に何か神様がいるという信仰、それから“お前たちはこうしないとならないのだ”というように「高みから道徳を説く神」など、そういう6つの要素が33の部族社会にどのように分布しているかという研究があります。Peoples and Marrowなどによる研究です。
研究によるとアニミズムが一番古く、死後の世界への信仰やシャーマニズム、祖先崇拝は、アニミズムより後で急速に、また一緒に進化してきたようだということです。
一方、「高みから道徳を説く神」というのは、狩猟採集社会には存在しません。狩猟採集社会では、みんなで「何をしてはいけない」「何をしたらいい」ということが普段の生活の中で自然に出てくるので、「これは絶対にしてはいけないと神様が言っています」というようなものはないのです。
それが出てきたのは、どうも「農耕・牧畜・定住・階層社会」になってからのようです。農耕・牧畜などで定住すると、財産ができて階層もできている。みんなで一緒に働かなければいけないのに、ズルをする人がいる。しかし、小さい社会ではないので、お互いに顔見知りで「駄目ですよ」というような声はもう届かない。
そういうときに、ズルをしたり悪いことをしたりする人を、全体が共有する概念として、偉い神様が「それはいけない」と言っているというようにする。つまり、「ズルをするフリーライダーを、特に何とかしなければいけない」という問題に対処する必要から、「高みから道徳を説く神」の存在が出てきたのではないかと、彼は分析しています。私もそうだと思います。
大集団で共同作業をするというのは、狩猟採集社会ではあまりなかったことです。「牧畜・定住・文明」を行うということは大集団がやらなければいけなくて、そういう集団をうまく回すためには非常に強い道徳や倫理が必要になったわけです。
そこで、偉い神様による宗教的説明で、「やっていいことと、いけないこと」をきちんと言うことが必然的に大事になったのではないでしょうか。
なので、道徳や価...