●強まる排外主義とデモクラシーの危機
皆さん、こんにちは。早稲田大学の齋藤と申します。今回は公共哲学のいくつかの(中で)、今私が重要だと思う論点についてお話しいたします。
まずデモクラシーの現状と課題、そしてカントの公共性論、ハンナ・アーレントの公共性論、最後のほうで公共性の基本的な考え方と、政治と経済をどうブリッジできるかについて簡単にお話しいたします。
ではデモクラシーから始めます。
このところ、デモクラシーは大丈夫なのかという危惧がかなり深くなり、広まってきています。きっかけは、2016年のイギリスのEUからの離脱に関する国民投票です。そして、(この年に)トランプ大統領が当選しました。いずれも半年ぐらい前まではそういうことはないだろうと思われていたのが、まさに民意によってそうしたブレグジットとか、トランプの当選が決まったのです。
ご存じかもしれませんが、フランスでは前の名称が国民戦線、今は国民連合に変わっていますが、これも勢いがあります。前党首がマリーヌ・ルペンという方で、女性の党首でした。最近は福祉ショーヴィニズム(福祉排外主義)といって、「フランス国民だけにもう一度戻れば、かつてのような手厚い福祉をもう一度取り戻すことができるのだ」ということをアピールしている政党です。
(2024年)イギリスでも暴動がありました。これも誤情報、偽情報の影響があったわけですけれど、イスラム教徒が人に対して危害を加えたとされた。とりわけ、イスラム教徒をはじめとして移民、難民に対するネガティブな態度がヨーロッパでかなり広まっているし、定着しているといっていいかと思います。
●ポピュリズムの「反多元性」の問題
この20年くらい、ポピュリズムと呼ばれる動きが活発になってきています。ヨーロッパだけではなくて、インドのモディ首相とか、トルコのエルドアン大統領とか、ハンガリーのオルバーン首相、南米ではベネズエラなど、各地に見られます。
その特徴とは何なのかというと、いろいろと挙げられます。排外主義、ショーヴィニズム、それから反エリート主義。エスタブリッシュメントを打破していく。あるいは立憲主義、憲法を軽視していく。自分の都合のいいように基本的な制度を変えていく。あるいは議会...