●「プラチナ社会」発想のルーツとなった2冊の書籍
テンミニッツTV座長の小宮山宏です。2025年の年頭にあたりまして、恒例に従い年頭所感をお伝えしたいと思います。
今世界を眺めますと、いわゆる覇権国家といえるほど圧倒的に強い力を持つ国はなくなってきたように思います。アメリカが弱くなってきていますし、中国もとても覇権といえる状況ではない。どの国も、いわば自分の国内を考えるだけで精一杯のような状況が目立ちます。
そのような中、われわれはどうすべきか。これは毎年繰り返し申し上げているかもしれませんが、「日本の国を強い国にする」「課題先進国を課題解決先進国にする」ということが大事なのだと思います。私は16年ほど前に「プラチナ構想ネットワーク」を立ち上げ、「プラチナ社会」というものを目指す、いわば社会運動をしているわけですが、だいぶ具体性が見えてきたように感じていますので、そのお話をさせていただきたいと思います。
まず「プラチナ社会」という発想に至るルーツを考えてみますと、若いころに読んだ2冊の本に行き当たるように思います。
一つは『成長の限界:ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』(ダイヤモンド社)。これは1972年、私がドクターを取った年に(日本で)出版されました。ローマクラブが「地球は有限だ」と、今思えば当たり前の話ではあるのですが、「地球は有限、資源も有限で環境も有限だから、成長には限りがある」ということを言ったわけです。これは、「無限の荒野に向かって人類が発展していく」という感覚がまだ残っていた当時の世界に衝撃を与えました。
もう1冊は宇沢弘文氏という、なぜノーベル経済学賞をもらわなかったのかといわれる経済学者によるもので、ローマクラブ(の本)の後に、『自動車の社会的費用』(岩波書店)という本が出版されました。
彼はこの本のとき(1974年)にはまだ、空や海や水、交通インフラや教育システムといったものを「社会的共通資本」と定義することはしていません。それについては、2000年の『社会的共通資本』(岩波書店)という有名な本で、その中身を定義しています。自動車は非常に便利で、社会に大きな便益を与えるものだが、公害を発生したり、交通渋滞を引き起こしたり、社会的費用を発生するということでした。そして、どちらかというとその...