危機のデモクラシー…公共哲学から考える
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共生への道…ジョン・ロールズが説く「合理性と道理性」
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(5)共存・共生のための理性
政治と経済
齋藤純一(早稲田大学政治経済学術院政治経済学部教授)
フェイクが含まれた情報や陰謀論が跋扈する一方、多様性が尊重されるようになり多元化する人々の価値観。そうした現代社会で、いかにして私たちはともに公共性を保って生きていけるのか。多様でありながらいかに共存・共生できるか。そのヒントについて、ロールズの議論を参照しながら考える。(全6話中第5話)
時間:8分58秒
収録日:2024年9月11日
追加日:2025年4月25日
≪全文≫

●パブリックとプライベートの境界は動いている


 それでは4番目の論点にまいります。公共的なものを考えるときの重要な考え方です。これは3点ほどに絞ってお話ししたいと思います。

 まずパブリックとプライベートです。「公私」というものはどのように捉えればいいのか。注目したいことは、その境界線は動いていくということであります。

 例えばドメスティック・バイオレンス(DV)です。夫であるとか、恋人であるとか、そういう親密な関係において男性から暴力を受ける。これはある時期までは甘受すべき不運でしかなかったわけです。私的なものに閉じ込められていました。それがやがて、フェミニズムの運動があったということもありますけれど、「公共的な不正義」として捉え返されていきます。私だけではなくて、女性たちが共通して経験してきた不正義なのだという捉え返しが起こってきました。

 あるいは、私が学生時代はハラスメントという言葉はありませんでした。「教授にちょっかいを出された」とか、そんな話で片付けられていました。今はさまざまなハラスメントが相手の人格を傷つける、心身を損なう重大な危害であるという認識が急速に定着するようになってきました。

 私的なものから公共的なものへという動きだけではなくて、かつて公共的な統制の下にあったものが私的なものになっていく。これも重要な動きであり、例えば「ソドミー法」と呼ばれる法律があって、特定の性行為を犯罪(対象)にするということです。刑事罰の対象です。獣姦とかがありますけれど、基本的なターゲットは同性愛者です。ベンサムの同時代にはソドミー法がありました。ベンサム自身はどうであったかは分かりませんけれど、ベンサムは同性愛を擁護していました。ただ、彼はそのエッセイを公にすることはできなかったのです。そのくらい同性愛者に対する否定的な見解が同時代の支配的な空気だったわけです。

 それが変わってきたわけです。今、同性愛者だけではなくて、LGBTQです。性自認や性的な指向は、自分で自分のセクシュアリティについては自分で決めるものである、国家が決めるわけではないのだという認識が定着しようとしているところだと思います。


●多様な人々が共生するために必要な3つの価値


 公共性の2番目の論点です。自由な制度――言論の自由、思想の自...

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