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マルクスを理解するための4つの重要ポイント

マルクス入門と資本主義の未来(1)マルクスとはどんな人物なのか

橋爪大三郎
社会学者
情報・テキスト
『労働者の味方マルクス』
(橋爪大三郎著、現代書館)
マルクスは世界で最も偉大な社会科学者の一人であるが、最近の学生の中には彼の思想に関して知らない人も増えてきているという。そこで、今回の講義ではまずマルクスを理解するための重要な点として、ユダヤ系ドイツ人という出自や強い影響を受けたというヘーゲルなど4つのポイントを挙げて解説を進めていく。(全10話中第1話)
時間:10:16
収録日:2020/09/09
追加日:2020/12/24
タグ:
≪全文≫

●マルクスという人を理解する上で重要なポイント


 こんにちは。橋爪大三郎と申します。本日は、5回にわたってマルクスに関して講義をいたします。

 種本をご紹介しておきますと、私が以前執筆した『労働者の味方マルクス』という本になります。10年ほど前のことになりますが、学生諸君はマルクスのことをまったく知らないという状況でした。それを憂慮して、マルクスの為人、『資本論』の内容、マルクス主義の内容などに関してまとめました。現代書館から出版されており、まだ購入できると思います。こちらの内容に基づき、10年経過して変化した状況も踏まえながらお話ししていこうと思います。

 まず、カール・マルクスという人はどのような人なのか、ご説明いたします。マルクスは随分昔の人となりますが、彼が主として活躍した時代は150年程度前、19世紀半ばになります。

 彼を理解するための重要な点の第一は、彼がユダヤ人だということです。日本にはあまりユダヤ人がいないため、どのような人々なのかあまりピンとこないかもしれませんが、これが第一のポイントです。

 第二のポイントは、ドイツで生まれ育ったドイツ出身の人だということです。 当時のドイツはまだ統一国家となっていませんでした。そのため、民族としてのドイツと国家としてのドイツは別々に理解されており、社会は混乱していました。

 第三のポイントは、ヘーゲルに強い影響を受け、彼の考えを基礎として自分の考えを発展させたという点です。ヘーゲルも、最近の日本ではあまり読まれませんが、これもポイントになります。

 最後に付け加えると、時代を丸ごと全体的に認識しようとしたことが挙げられます。どのような時代でも必要なことですが、マルクスは19世紀半ばのドイツで、それをやり遂げようとしたのです。全体的に認識するためには、特定の専門にこだわるわけにはいきません。マルクスに関していえば、専門はあってないようなものです。経済学にも哲学にも歴史学にも通じており、何でも勉強して吸収し、自分の考えに反映させて人々に伝えるという全体的な思想家なのです。マルクスが最も偉大な社会科学者であることは周知の事実ですが、ある人によれば、残りの社会科学者全てを束にしてようやく釣り合うほど、マルクスはダントツで偉大であるとのことです。そうした手強い人なのです。


●ユダヤ系ドイツ人の合理性と天才の出現


 順番に詳しく話していきましょう。

 まずユダヤ人というポイントですが、ユダヤ人とはユダヤ教を信仰している人のことを指します。ユダヤ教はキリスト教徒の迫害から逃れるために、異なるコミュニティをもっています。当時のドイツの大多数はキリスト教徒ですから、ユダヤ系ドイツ人は差別、迫害の対象でした。彼らはドイツ人なのかと。

 そのような集団の中で育ったため、常に社会の主流の考え方から一歩引いて、その外側から考えるという、強い批判的意識を持つことになりました。ユダヤ教の特徴は、非常に合理的なところです。したがって、合理的、つまり理詰めに社会のことを考え、批判的な態度を取ります。19世紀から20世紀にかけて多くの天才が現れ、多くの業績を残しましたが、その天才の中にはユダヤ人が非常に多いのです。その理由は、この点にあるのではないかと思います。


●ドイツ統一の夢とヘーゲル哲学の発展


 第二のドイツという点に関しては、当時プロイセンという強大な国が存在しており、ドイツ統一を目指していました。しかし、他にもバヴァリアなどの小さな国が多数存在し、烏合の衆となっていたため、まとまらなかったのです。それをまとめるためにドイツの民族主義者たちは力を尽くしていましたが、どのような国をつくるのかという構想に関してコンセンサスがなく、混沌とした状況が続いていました。

 そこで、ヘーゲル(ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル)という人が出てきます。彼は哲学者であり、思想家であり、当時のドイツで最も影響力のあった人の一人です。

 彼はマルクスよりも少し前に活躍した人です。ナポレオンがドイツに侵攻してきた際に、ドイツは敗北し占領されました。ナポレオンの指揮の下、いわれるままにドイツ兵はロシアに攻め込むなど、ナポレオン戦争の後さまざまなことが起こりました。なぜこのような事態になってしまったのか。ヘーゲルはそのナポレオンに感銘を受けました。ベートーヴェンも同じように感銘を受けて、ナポレオンに曲を献呈していますが、当時のドイツ人は強い印象を受けたのです。フランスの先進性、つまり「理性」を中心としてフランス共和国をつくり、哲学、学問を発展させて、世界を制覇しようとしている点を評価したのです。翻ってドイツに目を転じると、ドイツに「理性」はあるのでしょうか。ドイツ人はショックを受け、われ...
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