●マルクスという人を理解する上で重要なポイント
こんにちは。橋爪大三郎と申します。本日は、5回にわたってマルクスに関して講義をいたします。
種本をご紹介しておきますと、私が以前執筆した『労働者の味方マルクス』という本になります。10年ほど前のことになりますが、学生諸君はマルクスのことをまったく知らないという状況でした。それを憂慮して、マルクスの為人、『資本論』の内容、マルクス主義の内容などに関してまとめました。現代書館から出版されており、まだ購入できると思います。こちらの内容に基づき、10年経過して変化した状況も踏まえながらお話ししていこうと思います。
まず、カール・マルクスという人はどのような人なのか、ご説明いたします。マルクスは随分昔の人となりますが、彼が主として活躍した時代は150年程度前、19世紀半ばになります。
彼を理解するための重要な点の第一は、彼がユダヤ人だということです。日本にはあまりユダヤ人がいないため、どのような人々なのかあまりピンとこないかもしれませんが、これが第一のポイントです。
第二のポイントは、ドイツで生まれ育ったドイツ出身の人だということです。 当時のドイツはまだ統一国家となっていませんでした。そのため、民族としてのドイツと国家としてのドイツは別々に理解されており、社会は混乱していました。
第三のポイントは、ヘーゲルに強い影響を受け、彼の考えを基礎として自分の考えを発展させたという点です。ヘーゲルも、最近の日本ではあまり読まれませんが、これもポイントになります。
最後に付け加えると、時代を丸ごと全体的に認識しようとしたことが挙げられます。どのような時代でも必要なことですが、マルクスは19世紀半ばのドイツで、それをやり遂げようとしたのです。全体的に認識するためには、特定の専門にこだわるわけにはいきません。マルクスに関していえば、専門はあってないようなものです。経済学にも哲学にも歴史学にも通じており、何でも勉強して吸収し、自分の考えに反映させて人々に伝えるという全体的な思想家なのです。マルクスが最も偉大な社会科学者であることは周知の事実ですが、ある人によれば、残りの社会科学者全てを束にしてようやく釣り合うほど、マルクスはダントツで偉大であるとのことです。そうした手強い人なのです。
(橋爪大三郎著、現代書館)