マルクス入門と資本主義の未来
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なぜマルクスの予言は失敗だったか…『資本論』の問題点
マルクス入門と資本主義の未来(5)『資本論』の弱点
橋爪大三郎(社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授)
マルクスの描いた未来予想図は当時の人々に衝撃を与えたが、その後、彼の予言通りにはなっていない。その現象的な理由としては、マルクスが言及しなかった「中産階級の出現」が挙げられる。こうした問題が生じたのは、マルクスの議論がスケールメリットや副産物の存在を無視した非常に単純化した理論だったためである。(全10話中第5話)
時間:11分14秒
収録日:2020年9月9日
追加日:2021年1月21日
≪全文≫

●共産主義の世界的な伝播の脅威


 それでは、最後となる第五回の講義を始めます(編注:2回に分けてお伝えします)。マルクスの仕事、特に『資本論』について、そして共産党についてお話ししてきましたが、マルクス主義のその後の展開について考えてみようと思います。

 今から100年以上前にロシア革命が起きた後、世界中は大騒ぎとなりました。このまま世界中がマルクス主義、共産主義の社会になるのではないか、と多くの人が心配していました。特に資本家や現体制を維持している人々は動揺します。ドイツ、フランス、イギリス、アメリカなど各国にそうした動揺は波及していきました。

 イギリスとアメリカはアングロサクソンの人々です。どういうわけか、アングロサクソンの人々は、マルクス主義の影響をあまり受けませんでした。対して、フランスやドイツではマルクス主義の影響は大きかったのです。イギリスやアメリカも、自国以外の国々が共産主義化することを憂慮しました。

 日本や中国でも、それなりに共産主義の力が強くなり、動揺が起こりました。日本では知識人には大きな衝撃を与えましたが、現実的な運動としてはそれほど盛り上がりませんでした。中国では、知識人に大きく影響を与えただけではなく、現実の政治・社会運動として大きな力を持ち、国民党に打ち勝って中華人民共和国を建設しました。このように中国では共産主義が世界史の流れを大きく変えて、共産主義への懸念は現実のものとなりました。それ以外の国々でも、共産主義は大きな力を持ちました。


●中産階級の出現でマルクスの予言通りにはいかなかった


 総じていうと、世界が共産主義の波に飲み込まれるということは起こりませんでした。さまざまな理由がありますが、現象的にいえば、マルクスが予言したように、労働者の運命が悪化の一途をたどるということはありませんでした。中産階級が出現したためです。

 マルクスの予言によれば、プロレタリアートは生存水準かそれ以下の生活しか送れないようになるため、革命のみが希望となり、共産党に集結するとされていました。対して、中産階級には余裕があります。例えば、「自分が中卒だったから、子どもには高校や大学に行かせよう」とか、「借家ではなくて一戸建ての家に住もう」とか、「休みには旅行に出かけよう」など、全体的に余裕を持っています。余裕があるということは、失わ...

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