●「米国システム」の底流にあるハミルトン経済学
実際に図で見ていただくと、アメリカの貿易赤字は、2001年の中国のWTO加盟をきっかけに肥大化が止まらないような状態にあります。
2018年に当時の第1期目のトランプ政権が本格的に米中貿易戦争を始めて、中国にかなり関税をかけたのですけれど、その結果、グラフを見ていただくと分かるのですけれど、少しだけ貿易赤字が是正されているのです。これを今のトランプ政権の人たちは成功体験として見ており、関税は有効であるという認識を持っています。
しかし、その後、バイデン政権になった後、もっとアメリカの貿易赤字は製造業を中心に増えていき、これを何とかストップしないとアメリカは崩壊するという問題意識もあります。
今のトランプ政権の人たちが解決策として議論を重ねているのが、米国システムの復活なのです。この米国システムというのは、アメリカの歴史学でも確立した用語です。
思想的にたどっていきますと、建国の父、アレキサンダー・ハミルトンの思想に立脚しておりまして、アレキサンダー・ハミルトンの経済思想というのはハミルトン経済学といわれるほど、アメリカの経済学でも確立したものなのですけれど、これはどういうことかといいますと、当時の歴史背景を振り返ると、アメリカの独立戦争に勝って、そして今度はアメリカという新しい国を本格的に建国しなければいけない。しかし、ヨーロッパ列強、特に大英帝国はまだ脅威として残っていました。
そのときにどういうアメリカの経済体制を確立するかという問題意識からスタートして、ハミルトンが提唱したハミルトン経済学が、関税を楯に国内産業を奨励し、重商主義で「商業共和国(コマーシャルグリップ)」というのですけれど、これをアメリカの国家ビジョンとして育成して、当時独立戦争を勝った後にも脅威として残っていた大英帝国の自由主義、自由貿易に対抗しなければいけない。これは典型的な北部の思想なのです。
アレキサンダー・ハミルトンの生い立ちですが、生まれはウエストインディというカリブ海なのですけれど、彼はニューヨークで育って、コロンビア大学も出ています。なので、北部の典型的な政治哲学が、アレキサンダー・ハミルトンの経済学にけっこう含まれてい...