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中国はアメリカの「孤立化」を仕掛けてくる

米中関係を見抜く(2)強硬策か宥和策か

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
現在のアメリカ対中政策は、中国の長期抗戦に引きずり込まれる形になっている。かといってアメリカは、トランプ政権や一部の学者たちの思惑通り、簡単に対中経済依存から脱出することもできない。だとすれば、アメリカの対中戦略はうまく行くのか? アメリカはけっして「観念」だけでは動かないのである。(全4話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(10MTVオピニオン編集長)
時間:08:51
収録日:2019/06/28
追加日:2019/08/28
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≪全文≫

●アメリカは中国の長期抗戦に引きずり込まれた


―― アメリカは、ある意味で泥沼に足を突っ込んだということですね。

中西 そうです。アメリカがまさに日中戦争のような泥沼に足を突っ込み始めているのです。ですから、ここでアメリカが大戦略を持っているのかどうかということが重要でしょう。中国は、やはり「韓信の股くぐり」ではないですが、まず長期持久体制を作る方向へ動いています。これは国内的には相当厳しい試みです。今の中国は、昔とは違いますので、貿易で関税をかけられると、国内の雇用問題が発生していますね。あちこちでストライキや失業者のデモが起こっているようですし、国際収支も危うくなっています。「恐らく2年以内には経常収支が赤字になる」と予測する専門家もいます。ですから、ここでアメリカにグイグイとやられると、とめどもなく中国は苦しくなります。


●中国は国内外の戦略を使ってアメリカに対抗する


―― 中国のとる手段としては、長期抗戦ということで行ったとするとカードが2つありえて、アメリカと宥和的な道を多少進めながら経済も破綻しない程度のバランスでやっていくというものです。これは国内の経済もなんとか前向きにしていくという宥和的な路線です。他方で、毛沢東時代のように敵を明確に設定し、「敵はアメリカだ、国民一致団結せよ」という形で引き締め策に入るという手段もあります。この場合、明治時代の日本の臥薪嘗胆のように、国民に我慢せよというメッセージを出しながら乗り切る硬い路線に向かっていくことになります。恐らく中国としては両方取り得ると思うのですが、先生は中国がどのような道を選ぶと思われますか。

中西 今おっしゃった2つの道は、全く矛盾するものではありません。ですから中国人にすれば、2つの道は両方採用できるはずです。一方で宥和路線のような、譲歩を小出しにしながら国内は締め付け、長期持久体制に邁進する。

 その時の長期持久体制は、国内だけを見ていてはいけません。やはり重要なことは、さまざまな手段を使って国際社会に働きかけることです。日中戦争の経験からすると、結局のところ日米戦争に日本を追い込んでいったことで、中国は日本を打倒しました。それこそアメリカのウォール街に浙江財閥が働きかけたり、蒋介石ファミリーが得意の雄弁をふるい、妻の宋美齢氏がアメリカ議会で演説を行うなどしたことも、効き目がありました。こうすることで、国際社会において日本を孤立化させました。そして、とうとう最後は日米戦争以外に方途はないほど孤立化していきましたね。

 中国の大戦略として、われわれが一番じっと見ておかなければならないのは、アメリカとアメリカの同盟国を切り離すというものです。同盟国でなくても、アメリカが影響力を持っている東南アジア諸国や中東の親米アラブ国家、あるいはいわずもがな、ヨーロッパNATO諸国への働きかけもありうるでしょう。そのような地域で、多数派形成をしていく。「あのトランプのアメリカだよ」といえば、世界の、特に先進国地域の有権者・国民は、「そうだね、トランプのやり方はちょっとひどいね。中国の言うことにも一理あるね」というかたちになる。そのような世論操作の方法は、ものすごく効果があります。特にヨーロッパでは有効だと思います。

 さらにいえば、やはりマネーパワーは強大なものです。「一帯一路」のような国際的な経済エリアの拡大はいうまでもなく、これからはさまざまな米中プロパガンダ戦が地球大で行われるでしょう。


●アメリカは「対中経済依存」から脱出できるのか


中西 特にそこで、トランプ政権が注意しなければならないのは、いわゆるデカップリング論です。これまで、米中経済は分かちがたく結びついており、特にサプライチェーンを巡って経済的な相互依存関係にありました。アメリカは、こうした関係を全部切り離し、中国系企業の部品に依存しなくても済むような別のサプライネットワークを地球大に広げていくという戦略を掲げています。しかしこれは、絵に描いた餅に過ぎません。

 この件については、カリフォルニア大学の経済学者ピーター・ナヴァロ氏と何度か話したことがあります。だいぶ前のことですが、彼とは台湾問題について意見が非常に一致しました。カリフォルニア大学のテニュアを取った教授であるだけあって、専門である経済学の狭い領域については立派な業績があり、学識のある人です。

 しかし、そうした経済学的知見を外交戦略や対外政策に落とし込む際には、かなり乱暴な議論を展開する人だなという印象を持っています。デカップリング論についても、彼はサプライチェーンを切り替えていくということは可能だと考えていました。アメリカの対中経済依存は、頑張れば断ち切ることができるのだ、とみなしているのです。しかしこれは学者の...
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