●令和2年度のコロナ対応の合計額は76兆円
岡本薫明と申します。昨年(2020年)の7月まで財務省に勤務していました。今日は機会をいただき、日本の財政・社会保障についてお話させていただきます。
資料を準備しています。まさに今、コロナの問題で昨年から世界中が大変な状況に見舞われています。これに伴い、財政もこれに対する万全の対応をしなければいけません。私が昨年4月まで勤務していた時も、令和2年度の補正予算に多額の財政出動を行っていました。
資料1枚に、これまでにとっているコロナ対応の全体を少しまとめてみました。令和2年度は、全国民への給付金の配布や、資金繰り対策、その他これまでとったコロナの財政出動を合わせると全体で76兆円になります。
いろいろな方々から「やっぱりお金というのはあるところにはあるのですね」と言われることがありましたが、決して76兆円というお金を持っていたわけではありません。
●借金で歳出を賄っている日本の財政は国際的にも異例
令和2年度の予算はどのようになったのかをまとめたのが、この資料です。もともと令和2年度予算は102兆円の予算を組んでいましたが、そこに先ほどの70兆円以上の歳出が乗っかりました。最終的には、令和2年度は補正後の予算で175兆円を上回る予算になりました。
これに対して、実際に入っていた税収と、一部の税外収入が63兆円なので、結局令和2年度は112兆円の借金をしたことになります。ただ、ご覧いただいて分かるように、当初予算でもともと60兆円ほどの税収を見込んでいたので、102兆円に対して40兆円弱、つまり30兆円以上の借金を予定していたことになります。これに75兆円が乗っかり、いわば全て借金で歳出を賄っていることになります。これは大変異例な姿ですが、まさに過去に例を見ないコロナ禍に対応するための出動として、当然必要なことでした。また、これは日本だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ各国とも、世界中が、これに対する財政出動を基本的には国債で賄う対応をしています。
ただ、今申し上げたように、日本の財政はもともと100兆円の予算に対して、リアルに入ってきているお金が6割強です。要するに3分の1はもともと借金で賄っていました。実はこれは国際的に見ても非常に厳しい財政状況です。このコロナの状況をなんとか乗り越えて日本経済をまた元の軌道に戻したときに、この財政問題を健全化に向けてきちんと進めていかなければならない問題があります。
●借金には特例公債と建設公債の2種類がある
日本の財政のこれまでの推移を簡単にお話させていただきます。ちょっと細かい資料ですが、このグラフは赤い折れ線が国の予算の歳出、青い折れ線が税収、黄色い点線が名目GDPです。これは昭和48年からのこれらの推移をまとめたものです。
この山のように積み重なってきているのは実は借金です。借金に2種類の色がついていますが、借金には特例公債と建設公債の2種類があります。
もともと日本は財政法という法律で借金はしないことが原則になっていますが、財政法上認められている借金があります。それが建設公債です。これは借金が、例えば道路や橋を造るのに使われるのであれば、それらが資産として残るので、将来の世代もその利益を享受できます。つまり、資産と負債が両方残るものについては財政法上認められているのです。
負債だけを将来に回してしまうことはダメです。しかし残念ながら、昭和50年から日本は特例公債をずっと出し続けていて、今やこの額が非常に巨額になってきています。
●コロナ以前から慢性的な借金依存の財政になっていた
少し日本の財政を遡って見ていきたいと思います。今申し上げたように、実は昭和50年までは日本の財政は基本的にバランスがとれていて、特例公債を発行せずに済んでいました。ただ、昭和40年代のオイルショック以降、日本の経済がそれまでの高度経済成長からスローダウンしてくる中で、税収がそれまでより伸びなくなってきます。そういったことから、昭和50年以降は特例公債の発行がスタートをします。実は毎年特例法を出しながら借金をしているのです。
私は昭和58年に当時の大蔵省に入りました。当時も実は財政再建は非常に大きな問題でした。そのときの財政再建の目標が、とにかく将来世代にツケだけ回す特例公債を1日も早く止めようということです。至極当然のことだと思います。これを一刻も早く脱却することを目標に、歳出を厳しく抑え込み、行財政改革に取り組んでいた時代が昭和50年代です。
その後、日本経済はバブル経済を迎え、これに合わせて実は税収も伸びました。平成に入り、...