●高齢化に伴って増えていく社会保障費
こちらのスライドは1人当たりの医療費・介護費を、65歳~74歳のいわゆる前期高齢者の方と75歳以上の後期高齢者の方の平均で比べたものです。
例えば医療費で見ると、医療費がほぼ倍ぐらいに増えます。実はこの増える分のほとんどが、保険料よりも財政負担で賄われるので、1人当たりの国庫負担に相当する額が大きく増えます。介護は当然お年が進めば、介護のサービスがより必要になるので、ある意味当たり前です。介護で見ると、よりその傾向は顕著だということがお分かりいただけると思います。
ただ前回、人口構造の変化で見たように、問題はこれから後期高齢者がどんどん増えてきて、むしろ前期高齢者の方が減ってくることです。さらに、64歳以下も少子化の影響で今後、薄くなっていきます。
この人口構造の変化と高齢化に伴う社会保障給付の増加が、前回申し上げた財政の問題となっています。この社会保障の給付と負担のバランスをいかに適切化するかが非常に重要な問題になります。それを考える際には、人口構造の問題をしっかりと見据えて、いろいろな課題に取り組んでいく必要があります。
●日本の医療保険制度における4つの特徴
その際の視点を整理したのがこちらの資料です。これはわが国の医療保険制度の特徴と課題を整理したものです。わが国の医療保険制度の特徴を4つ掲げています。まず1つ目が国民皆保険であること。2つ目が、国民の皆さまがどの病院に行くかということを選べるフリーアクセスであること。3つ目は、医療を提供する側は自由開業の制度になっていること。4つ目は、かかったものについては出来高払いで支払われることです。これは日本にいると至極当たり前に受けとめられると思います。
保険制度ではなく、税で賄っている国があります。例えばイギリスなどがそうです。そうするとどうなるかというと、医療費は原則無料です。これを聞くと非常に充実したサービスと思われますが、勝手に病院にかかることができません。まずかかりつけ医のところで診断を受けて、必要ということであれば国立病院に行って治療等々が受けられる仕組みです。また、当然お医者さんの方も自由開業ではありません。なおかつ予算で統制され、歳出の中で医療サービスを賄っていくため、一定のコントロールがかかってしまいます。
ですから、今のコロナのような状況は非常に特別です。これは当然どの国も国を挙げてやっていますが、例えば急にインフルエンザが流行したりすると、途端になかなか医療を受けられないということが過去に問題になったことがあります。
例えばドイツのように皆保険制度を採っている国であっても、フリーアクセスではありません。あるいは、開業には一定の規制がかかっています。こういった組み合わせがなにがしか行われているところが多いのです。
●社会保障費が膨らむ構造的な問題
今申し上げたように、日本は皆保険で、フリーアクセス、自由開業です。当然保険制度のもとで患者負担を一定程度抑えられているので、医療を受ける側からするとコストを抑制するインセンティブが非常に生じにくいです。しかも、どの病院でも選んで行けます。今は一定の大病院にかかるときには一定のコストがかかる制度が組み込まれていますが、基本はどの病院も選んで行けます。
また医療機関側からすると、患者や診療行為数が増えるほど収入が増えるようになっています。ですから、ベッドがあればできるだけ空けないようにする力が構造的に働きやすくなっています。
これを財政面から考えると、全体の支出が非常に増えやすい制度になってしまっているといえます。しかも出来高払いなので、来年はこれぐらいの予算でなんとか収めようとはなかなかならなくて、かかればかかっただけ増えてしまいます。
これに加えて、先ほどご覧いただいたように高齢化が進展しているので、当然かかる病気も多くなります。また、長期化することも増えていきます。さらに、少子化で支え手が減ってきます。そして、医療の世界のイノベーションによる医療の高度化で、非常に高額の薬が出てきます。
もともと日本の社会保険システムはこうした構図にあった中で、支出の要素がより増え、それを支える要素が減っていきます。こういったことを踏まえて、先ほどご覧いただいた、社会保障のアンバランスをどのように是正するかを考えていくことが非常に大事になります。
●健やかで安心できる生活を守るために
これは何か一つをやれば片づく問題ではありません。やはり一つ一つ、いろいろな視点から考えていく必要があります。例えば、保険給付のあり方をどう考えるか、今後技術の進...