●なぜここまで歳出が膨らんでしまったのか
それでは、この歳出がなぜこんなに膨らんだのかをちょっとご覧いただこうと思います。
これは平成2年度と令和3年度の予算を比べたものです。1990年は歳出予算の規模が66兆円だったのが、2021年は106兆円なので、ちょうど40兆円増えています。ただ、この令和3年度の予算の中には歳出の中に新型コロナ対応の予備費5兆円が入っているので、この40兆円のうち5兆円はコロナ対応の予算といえます。ですから、ベースの予算で見ると35兆円が増えていることになります。
ではこの35兆円は何なのでしょうか。一番右の黄色い部分は借金の元利払いを表していて、借金が膨らんでいることが分かります。金利が下がった分、実は利払い費は低く済んでいるのですが、元利払い全体が約10兆円増えています。そして残りのほとんどが社会保障予算で、24兆円増えています。実はそれ以外の歳出は、平成の最初の頃と比較すると、全体としてほぼ変わらない規模になっているのがお分かりいただけると思います。もちろんこの中でも公共事業予算等々は少し抑制をして、科学技術の予算に少しでも振り向けるなど、中での配分の見直しはされています。しかし、全体の規模はほぼ変わっていません。
ところが、社会保障予算が11兆円だったものが、令和3年度では約36兆円ですので、社会保障の予算が3倍以上に膨らんでいます。
先ほどお話しした歳入をご覧いただくと、実はこの平成2年度は税収と建設国債で賄われていて、いわゆる特例公債がゼロで済んでいました。まさにこの予算が膨らんだ分、令和3年度には37兆円の特例公債の発行を予定しています。ですから、ちょうど予算規模が膨らんだ分が特例公債になっていて、その主たる要因が社会保障予算の増加ということがお分かりいただけると思います。
●社会保障の受益と負担のアンバランスが財政のアンバランス
社会保障予算がどうしてこのように増えてきているかを少しご覧いただこうと思います。
上の資料は国民に実際に毎年支払われる社会保障給付を見たグラフです。左側の折れ線グラフの赤い線が1年間に国民に支払われている社会保障給付の総額です。データが少し古いですが、足元では120兆円を上回る金額が毎年支払われています。右側の棒グラフはその内訳です。約半分が年金で、医療、介護、その他がこのようになっています。
この120兆円を上回る社会保障給付の財源が何かというと、70兆円強にあたる半分強が皆さまにお支払いいただいている保険料で賄われています。それ以外のところは、国や地方の財政負担が入っています。国の負担である35兆円が概ね先ほどご覧いただいた社会保障予算の総額に匹敵します。ただ先ほどご覧いただいたたように、国の予算の約3分の1が借金で賄われているので、国の負担とはいっても、もちろんお払いいただいている消費税は全額社会保障の財源になっています。その他の税財源も当たっていますが、実はかなりの部分は国債発行で賄われていることになります。いわば、毎年の医療、年金、介護でお支払いしているもののうち、ある一定割合が、実は将来世代の負担で賄われていることになっているわけです。
保険料と公費の内訳の推移が左のグラフでも示されていますが、特に公費の負担が、社会保障給付が増えるに従って年々大きくなっているのがお分かりいただけると思います。ちなみに、このグラフで見ると一番左側が先ほどご覧いただいた、まさに平成2年度ですが、その時の社会保障給付はまだ47兆でした。それが3倍近くに伸びてくることで、先ほどご覧いただいた社会保障予算がどんどん膨れ上がってきているのがここでもお分かりいただけると思います。
実はこれは高齢化に伴って増えてきています。問題なのは、日本の高齢化がこの後さらに進んでいくことです。それによって、伸びてきていたグラフが今後も増えていくことが今、確実に予想されています。
日本の財政の問題と財政構造をご覧いただくとお分かりいただけるように、「財政問題=社会保障問題」といっても全く過言ではないと思います。いわば社会保障で毎年国民の皆さんに支払われる受益がありますが、その負担の一部は将来世代の負担で賄っているのです。いわば社会保障の受益と負担のアンバランスが、そのまま財政のアンバランスになってきているということだと思います。
●少子高齢化による人口構造の変化
この社会保障の問題は、まさに高齢化に伴って発生してきているため、日本の人口構造の変化に大きく影響を受けます。
上の日本の人口構造のグラフは、1961年と、間もなく来る2025年および2040年を見た...