●コロナ危機は「吹雪みたいなもの」で、収まるまで待つしかない
学習院大学の伊藤です。今日はコロナ危機がマクロ経済にどういう影響を及ぼし得るのかということについて、いくつか私の視点を提供させていただきたいと思っています。
コロナが世界的に急速にひろがって、マーケットが大きく崩れたのが今年2020年の3月だったわけです。その時期のひと月くらい後だったかもしれませんが、3月か4月にもとのアメリカの中央銀行(フェデラル・リザーブ)の議長でベン・バーナンキという有名な経済学者がいるのですが、CNBCという経済テレビ番組の中でインタビューを受けて、今回のコロナ危機をどう見ているのか、と質問されたわけです。
彼の答えはこうでした。例えば、石油ショックのような形で石油価格が急騰することによって起きた経済危機とも違うし、あるいは2008年のリーマンショックのようないわゆる世界的な金融危機とも違う。例えていうならば今の危機は「スノーストーム」、いわば吹雪みたいなものだ、という表現を使ったわけです。
この「吹雪みたいなものだ」というのは、なかなか比喩としてみたら奥が深いものです。要するにスノーストームが吹き荒れているわけで、外に出ていったら命が危険になってしまう。皆、ロックダウンするしかない、ということです。ロックダウンすると当然、経済活動は停止しますし、特に貧困層を中心に命の危険にさらされることがあるかもしれない。したがって、政府はそこを一生懸命支援しなければいけない。
日本でいえば、国民に一律10万円を配るとか、あるいは雇用調整助成金で企業が人々に給料を払い続けられるように、政府が支援するとか。または中小企業を中心に、資金繰りが厳しくなって企業が倒産することがないように、政府あるいは金融機関がそれを一生懸命支えるといった政策になるわけです。そういう意味で非常な危機なので危機対応が必要だ、というメッセージだったと思います。
もう1つ大きな意味がありそうなのは、残念なのですがコロナという現象を抑え込むことはなかなか難しい。ちょっと吹雪が大きくなったときは吹雪を抑え込むことは難しいから、とにかく吹雪が収まるまで待つしかない、というわけで、ここがなかなか難しいところです。
●金融危機を起こさぬよう必死の努力を続ける世界の中央銀行や政府
この比喩にはいくつか大きな誤解をまねくところがありました。1つはやはり吹雪というのは、しばらく続くかもしれませんが少し我慢すれば一週間か10日で収まるわけですが、コロナはどうもそういう状況でもない。すでにこの話を収録している時点でも8ケ月が終わろうとしているのであって、そういう非常に長い闘いの中でどうしたらいいか、ということが問われるわけです。
ただ、バーナンキ氏がそういう話をしたときにやはり重要なポイントがあるわけで、それは何かというと、コロナがきっかけになって金融危機を起こしてはいけないという思いが非常に強かったと思うのです。現実に先ほど言ったように、3月には世界中の株価が非常に大きく下がっています。ですから、そういう状況で経済がさらに悪化することがないように、各国の中央銀行が必死になって、いろいろな資金をマーケットに注入しましたし、政府も財政政策を行ってきたのです。
●コロナ発生以降、良いニュースと悪いニュースが1つずつある
それから8カ月たってどうなったんだろうということを考えるときに、私はグッドニュースとバッドニュース(良いニュースと悪いニュース)が1つずつあるだろうと思うのです。グッドニュースは金融危機になっていないということです。一時的にはもちろん株価は暴落したわけですが、これは中央銀行の政策でなんとか留まって、この先どうなるかは分かりませんが現時点ではむしろ株価は非常に高い水準を維持している。株価だけではなく、債券市場とか資金市場が非常にうまく回っている。
これがなぜグッドニュースかというと、もし本当に金融危機に陥るようなことがあると、そこから経済が回復するというのは非常に大変なことだろうと思います。最近、世界銀行のチーフエコノミストになったカーメン・ラインハートという人があちこちで書いているのですが、19世紀以降、深刻な金融危機に陥った場合には、経済が元に戻るにはやはり6年から7年、場合によっては8年という期間がかかるだろう、と。
金融が一旦痛むとそういうことが起こるということだと思いますが、現時点ではそれが起きていないということでは、結果的にはウィルスの問題さえ抑え込めば、経済はそれなりに早く回復するという期待感をまだマーケットは持っているのでしょう。現実に、先ほどいったように株価が非常に高い水準にあるというのは、今は現実的に経済が悪いが、いずれ経済は戻ってくるだろうから...