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日本経済に決定的な変化をもたらした2回の危機とは

危機は経済を大きく変える(1)アベノミクスと日本の変化

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
「1回の危機は経済を変えるけれども、2回の危機はもっと変える」。したがって、コロナ危機によって、リーマンショック以降の変化がさらに加速する時期だと伊藤元重氏は見ている。こうした変化の時代を読むに当たり、まずアベノミクスを振り返る。アベノミクスはデフレ脱却のために金融政策、財政政策で需要の喚起を行い、この点ではある程度の成果をあげた。しかし、供給サイドでは規制緩和、税制改革をはじめ、いくつかの政策を打ったにもかかわらず、経済成長にはつながらなかった。(全2話中第1話)
時間:10:51
収録日:2020/10/27
追加日:2020/11/23
≪全文≫
●危機は経済の変化を加速させる

 「危機は経済を大きく変える」ということは皆が理解しているのだろうと思います。ただ、ある雑誌に出ていた非常に面白い言い方があって、1回の危機は経済を変えるけれども、2回の危機はもっと変える、と。

 当たり前といえば当たり前なのですが、これは何を言っているのかというと、今回のコロナの危機もそうなのですが、コロナ危機によってコロナ前にはなかったことがいろいろ出てくるという意味で、コロナは経済を変える、社会を変える、という面ももちろんあります。例えば、ソーシャルディスタンスを取るとか、そういうことがあるのですが、コロナの前から見えているいろいろな変化の多くは、コロナの危機によってもっと加速するという面のほうが非常に大きいのだろうと思います。


●2回の危機が日本に決定的な変化をもたらした

 したがって、2回の危機の中で起きている変化は非常に大事だということです。ちょっと過去の例でいうと、1973年に第一次石油ショックがありました。中東戦争をきっかけにして石油価格が高騰し、これが日本経済に打撃を与えたわけです。特に大きいのは、それ以前高度経済成長の中で重厚長大産業だった鉄鋼だとか石油化学などが構造不況産業になっていったこと。日本の産業構造が変わっていったわけです。

 ただ、そうはいっても1973年の石油危機で、日本経済が完全に変わったわけではなくて、とどめをさしたのは、1979年の第二次石油ショックでした。イラン革命に端を発して石油価格がさらに上がったわけです。だから、2回の石油ショックによって完全に日本は高度経済成長、重厚長大の社会から新しい時代、軽薄短小の産業に変わっていくわけです。

 もう1つ例を挙げると、1990年にバブルが崩壊しました。それまで不動産とか株価がずっと上がり続けている中で、ある種の経済であったわけですけれども、これが株がまず暴落し不動産が暴落することによって、日本は時代が変わってきたということを皆が感じ始めたわけです。

 さはさりながら、それによって社会が全部急激に変わるわけではない。けれどもトドメを刺したのは、1997年の年末、年の後半に山一証券が倒産し、1998年にいわゆる金融危機が起こる。不良債権問題が一気に広がっていくわけです。ここでもうとどめをさした感じです。

 ですから1990年のバブルの崩壊と1998年の金融危機を通じて、完全に日本は右肩上がりの時代は終わったのです。例えば、非正規労働が増えるとか、企業の投資の意欲が落ちて経済が低迷する。その後、失われた10年、20年が続くわけです。

 そういう意味で今回のコロナで何が起きているのかというときに、われわれがやはり見なければいけないのは、コロナ以前で、特に2008年のリーマンショック以降起きている動きのなかで出てきたことが、今後さらに広がるということです。


アベノミクスの成果はどうだったのか

 私は少なくとも2つ、注目しなければいけない大きな動きがあると思っています。1つはデジタル革命、デジタル技術による変化、すなわちデジタライゼーションという話。もう1つは米中の貿易摩擦の話です。米中貿易摩擦の話は別のシリーズ講義(「米中貿易摩擦の核心と展望」全2話)でお話ししているのでそちらをご視聴いただくとして、まずデジタライゼーションの話をしたいと思います。

 デジタライゼーションの話をする前に1つ申し上げたいことがあるのです。それは何かというと、アベノミクスという政策によって日本はどこが変わって、どこが変わらなかったのか。ご案内のように2012年の年末に安倍内閣が出てきて、安倍内閣の政策の一番の柱は「デフレからの脱却」ということでした。そこでご記憶にあるように、非常に大胆な金融緩和をし、財政政策もかなり積極的に打ち出してきたわけです。

 その成果はどうだったのだろうかというと、評価はプラスマイナスいろいろとあると思いますが、少なくとも数字で見るかぎりはかなり成果は上がって、株価は安倍内閣の間に2.5倍くらいに、1万円を切るような株価が2万3千円くらいまで上がってきている。失業率も安倍内閣が発足する前後では非常に高い、5パーセントに近い失業率だったのが、5年くらいの間に失業率が大幅に下がり、雇用が非常に活性化しました。

 企業の業績とか株価とも関連しますが、企業の業績もその間非常に好調で結果的にはGDPも2012年の末には480兆~490兆円だったものが550兆円くらいまで上がっている。 GDPが増えているので、政府の税収も大幅に膨れ上がった。したがって、安倍内閣が出てくる前の年にはGDP比で7パーセント近い財政赤字があったのが、安倍内閣が菅内閣に替わる前の2019年には財政赤字もGDP比で3パーセントを切るか切らないか、というところまで下がってきています。


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