●「新しい資本主義」は“七夕資本主義”か
今日は皆さんと一緒に、岸田政権の「新しい資本主義」とは一体何なのかということについて考えていきます。
私はこれを「七夕資本主義」と呼ぶことにしています。なぜかというと、しっかりした中身はないが、やりたいことは七夕の短冊のようにたくさん下がっているからです。その中身をしっかり皆さんと一緒に考えていきたい。そして、「新しい資本主義」ということを総理がいうなら、やるべき最大の課題があるはずなのですが、その課題を総理がおそらくひと言も言っていないのです。それを踏まえて、私なりの意見を最後に申し上げて、皆さんのご参考になれば良いと思っています。
岸田内閣にわれわれが期待する一番の問題は、やはり経済をちゃんとやってもらいたいということです。そこで岸田首相は「新しい資本主義」という考え方を打ち出されました。それは華々しいのですが、中身が何なのかがよく見えません。 岸田首相のそばにいる人もよく分からないと言っているわけで、それでは困るのです。
私から言わせれば、本来やるべきことがあるのではないかと。しかし、岸田首相が言っていることは、本来やるべきことにしっかりと目を据えていない感じがするのです。それだと日本がどこへ行くか分からなくなってしまうので、日本丸の船長の舵取りとしてはやるべきことを、使命感をもってやってもらいたい。というところまでこのシリーズでお話をしたいと思うのです。
●資本主義の歴史を振り返る
岸田首相は「新しい資本主義」を唱えていますが、資本主義をもう一回皆さんとおさらいしてみたいのです。資本主義というのは、19世紀の産業革命の頃に(当時、)最先進国であったイギリスで発展したといっていいと思います。
この頃は、企業家たちが利潤を求めて好き勝手やっていたので、自由放任でした。その結果として、労働者が搾取されるので、疲弊して非常に問題だと。このことをカール・マルクスが捉えて、こういう仕組みはほったらかしにしておくと「自滅するぞ」という警告で『資本論』を書いたわけです。20世紀に入って、特に第一次大戦前後に、このままでは良くないということで、最先進国のイギリスが修正資本主義をやりだしました。それは何かというと、あまりに労働者の搾取が激しいので、労働基準法や労働組合法など、社会保障に関する法律を作っていき、この自由放任の資本主義の弊害を食い止めていこうとしたのです。資本主義はそれで延命していくわけです。
日本でも1920年代から30年代にはそういう議論がずいぶんあり、東京大学の総長をやっていた大河内一男先生が「(社会的)総資本」の論理という話をしています。つまり、個々の資本家はどんどん儲けていいわけですが、総資本全体として労働者階級を疲弊させると、資本主義そのものが崩れるということです。そのような論理立てでイギリスの修正資本主義と同じようなことを言っておられたわけです。
しかし、第二次大戦があり、戦後になって、シカゴ大学のミルトン・フリードマン教授などが「ちょっと待てよ」と言い出しました。資本主義は本来、市場競争とイノベーションという非常にいいものを持っているのだから、規制はなるべく緩和して、できるだけ自由競争のメリットを生かす。そうすると、資本主義の本来持っている力強さを生かせて、経済成長につながる。そういった考え方がかなり強く出てきました。これを「ネオリベラリズム」といいます。「新自由主義」と日本では言っていますが、そのような流れになってきたわけです。
●外部不経済の是正と再分配政策の是非
岸田首相はこれを捉えて、現代の主要国の経済政策は大体がこのネオリベラリズム(新自由主義)に基づいてやっており、確かにそのおかげで経済は発展したかもしれないけれども、同時に弊害が目立ってきたと言っています。これは「外部不経済効果」というのですが、例えば格差が拡大し、貧困が増大するなどです。そして最近、非常に問題になっている地球環境の劣化も、資本主義のもと、やりたい放題やっているからではないかと。外部不経済効果が効いてきているということです。
岸田首相はそのような点に着眼して、「新しい資本主義」という考え方を提唱したいと言っています。つまり、外部不経済を是正する仕組みを資本主義の中に組み込むような「新しい資本主義」です。なかなかいいことを言っているわけです。格差や貧困を減らすために、分配政策を強調しているのです。
しかし、日本にはいくつかの弱点があります。例えば、デジタル化が遅れていますし、グリーン化も遅れています。それから、経済安全保障についても、これ...