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「新しい資本主義」の重点投資分野は実現可能な国家戦略か

岸田内閣「新しい資本主義」を徹底検証(3)総花的な成長戦略と重点投資分野

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
2022年に入り、岸田内閣は、資産所得倍増プラン、科学技術の戦略的支援、スタートアップ企業の育成計画など、さまざまな成長戦略を掲げてきた。一見すると有意義なプランが並んでいるようにも見えるが、果たして重点ポイントはどこにあるのか。(全4話中第3話)
時間:12:08
収録日:2022/07/07
追加日:2022/10/06
タグ:
≪全文≫

●総花的に羅列されただけの「成長戦略」


 皆さん、大体お分かりになったと思います。「新しい資本主義」というけれども、アメリカやイギリスにアドバイスするのならいいのですが、日本でやることではありません。日本で分配といっても、実際にやっていることは間違っています。一体私たちはどこへ向かうのかと、国民は非常に心配になるはずです。

 岸田文雄首相はお人柄がいい人ですが、演説をするたびに、どんどん中身が良くなっていっているのか、詳しくなっているのか、とにかく変化しています。

 岸田首相は当初、分配論を強調していましたけれど、分配の原資は成長なのだという議論があちこちから出てきました。特に政界では安倍晋三さんあたりが強く言っているので、成長と分配の好循環を実現するという表現になったのです。

 おそらく岸田首相がこれまで一番まともな趣旨を説明したのは、2022年1月17日の施政方針演説だったと思います。ここで何を言われたかというと、成長は分配の原資だから重要だということなのですが、成長するために何をしようとしているのでしょうか。

 要点は、デジタルを活用した地方の活性化で、そのためには5Gやデータセンターなど、インフラとルールを整備する。マイナンバーカードと運転免許の一体化をする。サプライチェーンを強靭化する。最先端技術の官民研究共同開発を支援する。10兆円ファンドで先端的大学を支援する。今年(2022年)からスタートアップの創出を5カ年計画で行い、戦後第二の創業期を目指す。再教育、副業活用でスキルを向上させる。企業に人的価値の非財務情報の開示を義務づける。公共施設の民間運営方式を促進する。これらのグランドデザインを6月にすると言ったのです。これは1月の段階です。皆さんはどう思われますか。思いつきが並んでいるとしかいえません。

 これは、これまでおっしゃった中で一番まともな成長戦略なのです。私から見ると、総花的に並んでいるのですが、どこに重点があるのかがまったく分かりません。優先順位と、選択と集中を示してもらわないと、戦略がまったく理解できません。


●具体的な方法が見えない政策プラン


 岸田首相は、ロンドンでポリス・ジョンソン首相(編:2022年7月に与党・保守党の党首辞任を表明。次の党首が就任する秋まで首相は続ける方針)と連休の時に仲良くなったらしく、ロンドンのシティで講演をしました。これは割と整理されていて、なかなかの講演なのです。成長戦略の中核に人的資本への投資を位置づけ、フローとストックの両面で人的資本投資をしますと。人的資本という概念が出てきたのです。

 フローへの人的資本は賃金であり、賃金の伸びの低さが問題なので、賃金を伸ばさなければ消費も成長も伸びない。賃金を伸ばすために、賃上げ税制を導入するというのです。前回、私がまったく理論的ではないと指摘したことを、ここでもおっしゃっているわけです。そして官民連携して、賃上げの社会的雰囲気を醸成しますと。賃金は雰囲気で上がるものではないです。これをロンドンのシティで平然とおっしゃっていましたが、専門家たちは愕然としたのではないかと思います。

 ストック面では、職業訓練、学び直し、生涯教育への投資を掲げています。この分野への日本の投資は確かに非常に少ないのです。教育訓練投資を強化して、人的資本を蓄積することで、労働移動、雇用の流動化を支援するとロンドンで講演されています。ストック面での重要な「人への投資」が、貯蓄から投資だというのです。日本の個人の金融資産は2000兆円あります。その半分以上が預金、現金です。この10年間、アメリカは家計金融資産が3倍になり、イギリスは2.3倍になりましたが、日本は1.4倍でしかありません。投資による資産所得倍増の実現を掲げており、確かに数字上はそうなのですけど、どのように倍増するのかについて、まったく言及がないのです。

 また、科学技術とイノベーションを強調されているのですけど、日本企業の研究開発投資は、先進国と比較すると、確かに圧倒的に少ないのです。国家戦略、国家目標を明示して、企業が重視する将来の期待成長率を示して、国家が呼び水となり、企業の投資を引き出しますと。言葉は綺麗なのですが、理論的にまったく意味のないことをおっしゃっているのです。人工知能(AI)、量子、それからバイオ、デジタル、脱炭素。この5領域で国家戦略を明示して、意欲のある企業には奨励をしますと言っているのですが、皆さんはどう思われますか。これを言われて、やる気が起きますか。

 それから、スタートアップ投資についてです。戦後に次ぐ第二の創業ブ...
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