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リバウンドとリカバリー―コロナ禍の経済を考えるポイント

コロナ禍の世界経済とその行方(2)真のリカバリーのために

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
これからのマクロ経済を見るうえのポイントとして、現時点では起きていない金融危機に対して、今後も警戒をゆるめることはできないだろうと伊藤氏は言う。非常に不安定な金融状況にあることは事実だからだ。また、コロナ以前から実体経済は良くないのに株価が高い水準を保っているという動きが、コロナ後さらに加速化している点も要注意だ。もう一つ、デフレ状態で膨張する財政赤字を抱える日本型現象が欧米にも広がっている点も看過できない。コロナ危機が長期化する中、政策でどこまで経済のリカバリーを促せるかが問われている。(全2話中第2話)
時間:10:41
収録日:2020/10/27
追加日:2020/12/14
≪全文≫

●金融危機は今後も警戒をゆるめることはできない


 そうなってくると、これからのマクロ経済を見るときにやはり大きなポイントが2つあって、1つは金融危機が今は起きていないわけですが、このまま安定的に行けるかどうかということと、それからもう1つはコロナの感染をなかなか十分に抑えることができない中で、経済がどこまで戻っていくのかということだと思います。

 金融危機についてはあまり悲観的な話をするつもりはありませんが、やはり警戒をゆるめることはできないだろうと思います。つまり、コロナ直後に起きかけた金融危機をなんとか政策で止めることができた。そういう意味では政策の影響というか効果は大きいのですが、ではそういう中で今後も金融がずっと安定しているかどうかということについては、やはり不安感を持っている人が多いだろうと思います。


●株価が高くても不安定要素が強い


 例えば今、実体経済が悪いにもかかわらず株価が高い状況にあるという、1つの大きな理由は、先ほどから申し上げているように、中央銀行が非常に潤沢に資金を提供し、政府が大規模に財政を支援しているからなのです。ですが、逆にいうとそれだけ非常に低い金利の中でつくられている株価ということですから、ある種、非常に不安定感があるのは事実だろうと思います。

 金融業界ではよく使われるらしいのですが、「バフェット指標」というものがあります。バフェットというのは有名な投資家なのですが、彼がよく発言するのでバフェット指標と呼ばれると思うのですが、分子にその経済の株価総額を取って、分母にGDPを取る。そうすると、日本は2020年の3月くらいにはこのバフェット指標が約98パーセントでほぼ株価総額とGDPが等しかったのですが、3カ月後の6月には120~125パーセントまで上がっているわけです。アメリカの数字はというと、バフェット指標は175あるいは180近い数字になっているのです。

 要するにGDPに比べて株価が非常に高い、ということを表しているわけで、これは実はアメリカのケースで見ると、2000年にアメリカはITバブルで株が膨張して、ITバブルの崩壊が起きたわけですが、この時期にほぼ近い数字に今あるということだろうと思います。

 だからといって、今の株式市場がバブルだと言い切ることは難しい。ある有名なエコノミストの名言の通り、バブルというのは「はじけてみて初めてバブルだったと分かる」わけですから、これはなかなか難しいのだろうと思います。

 さらにいえば、エコノミストの中には、バブルだから大変なことが起こると、常に言い続けている人がいます。大体10回のうち8回ははずれてはじけないのですが、1回ぐらい当たってしまうものですから、それでそのエコノミストも非常に有名な地位を維持しているというわけです。

 ですから、今の金融市場でバブルが起きていると言い切ることは難しいのですが、非常に不安定な状況にあるということは事実でしょう。そういう意味で金融については、さらに警戒が必要であるということです。


●高すぎる株価水準はコロナ以前から


 もう1つ、申し上げたいことがあります。それは今、コロナ危機で起きている金融の動きというのは、コロナによって新しいことが起きたのではなく、実はコロナ前から起きていることがさらに加速化している、ということだろうと思うのです。

 実体経済に比べて株価が高すぎるというのは、コロナが起こる前から言われていたのです。その背景にはいろいろな理由があるのですが、特に2008年のリーマンショック以降、大胆な金融緩和があちこちで行われてきて、株価は非常に好調で高く上がっていったわけですが、実体経済はそれほど良くなかった。だから別にコロナと関係なくコロナ以前から、こうしたちょっと高すぎる株価はどこかで調整されるのではないだろうかと言われていたのです。その中でコロナが起きたというわけです。

 一時はもちろんそうした状況が崩れたのですが、コロナ以前を超えるようなもっと大胆な金融の緩和によってコロナ以前に起こっていたことがもっと激しい形、つまりより高い株価の下で経済がより低迷しているのです。そうした実態があるということで、ここが非常に気になることだと思います。


●日本型現象が加速して欧米に広がっている


 さらにもう1つ、コロナの前から起こっていて、コロナが起きたためにさらに激しい動きになっているのが「日本型現象」といわれているものです。日本でもう20年ほどずっと起きている現象で、金利が非常に低く、経済成長率も低く、そしてインフレ率も非常に低いという、いわばデフレ的な状況で、それでも経済をなんとか支えるために、政府は財政赤字を抱えながらも財政刺激を続けてきた。もっと重要なのは中央銀行(日本の場合は日本銀行ですが)が資金をマーケットに...
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