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中国は「長期抗戦」の構えでアメリカに臨む

米中関係を見抜く(1)中国の戦略

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
これから米中関係はどうなっていくのか。前提として確認する必要があるのは、米中関係は短期的な視座では決して理解することはできないということである。なぜならアメリカの強硬な姿勢に対し、中国は「長期抗戦」の構えで対米政策に臨んでいるからである。そして「長期抗戦」こそ、中国共産党のお家芸なのである。(全4話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(10MTVオピニオン編集長)
時間:10:42
収録日:2019/06/28
追加日:2019/08/28
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≪全文≫

●米中関係は長期的視座で論じなければならない


―― 本日は中西輝政先生に、米中対立の行方とロシアのあり方についてのお話を、ぜひ伺えればと思っております。前回、先生に、2018年12月に先生にお話をしていただいた際には、「非常に長期的な読みとしては、現状を米中冷戦と呼ぶ人がいるが、本当にこれが冷戦なのか、冷戦のあり方というものをきちんと考えなければならない」「また、中国の経済的な力やインテリジェンスの力を考えると、長期化すればするほど中国が有利になるのではないか」「さらに、今後の習近平としては、まずは韓信の股くぐりのような形でいくだろうけれども、その先がどうなるか。他方、アメリカが何をめざすのか。この辺は日本としてよくよく見極めないと、大変なことになるぞ」というご提言をいただいております。その後、関税をめぐる交渉や、トランプ大統領はだいぶ強硬な手段を打ってきていて、中国の経済も厳しい数字が出始めているというなかで、さて、今後、どのような流れになっていくか、中西先生はどのようにご覧になっていますか。

中西 今、ギリギリの難しいタイミングで米中関係を論じなければなりません。2019年1月以降から半年あまりの米中関係全体の流れをざっと概観しても、やはり表面上対立の様相が厳しくなっています。2018年の時点から、中国はアメリカの要求を、知的財産権問題や政府が出している産業補助金の問題などで大幅に譲歩するなら、ということで交渉をしつつ、アメリカは中国からの輸入品に関税を10%かけ、それをさらに25%上乗せするということを巡って、ずっと議論を続けてきました。

 その間に、開催が間近であるとみられてきた米中首脳会談が何度も先延ばしになり、とうとう2019年6月の大阪のG20の場まで延びてしまいました。2018年の1年間の動きを踏まえ、さらに長期的に見ると、こうした状況は、中国による対米戦略の中で「大戦略」として位置づけられるような、いわゆる「韓信の股くぐり」的な対米宥和政策とは少し違う形がみられます。つまり、中国が昨今では少し強く、表面上は徹底抗戦を思わせるような強い姿勢に出始めているように見えるのです。

 ここで恐らく多くの日本人は、「ここにきて中国は絶対に譲れない話になってきたため、対米政策としては我慢できないところに来たのだろう」と考えると思います。特に産業補助金の問題は、2019年5月の米中交渉決裂の大きなネックなったので、やはり中国もいよいよ頭に来て、当初の戦略を忘れたか、あるいは「このまま行くと自滅が待っているのだ」と判断してキレはじめているのではないか、と短兵急に見る日本の分析家はけっこういると思います。中国の専門家の先生でも、そうおっしゃる人が中にはいます。しかし、今後の米中間はこうした短兵急な時間軸では論じることができません。これはまず押さえておくべき最初の点です。


●中国は「国体」を守るべく「長期抗戦」の構えを取る


中西 どういうことでしょうか。産業補助金や知的財産権の保護などをめぐる問題は、中国の現政権にとっては、確かに重要なテーマです。ここで譲ってしまうと、共産党体制の根幹を成している社会主義市場経済が崩壊しかねません。社会主義市場経済とは、政府が実質的に裏で全てを運営する、国家資本主義です。そのため当然、補助金などカットできるわけがありませんし、そんなことしたら利益共同体としての中国共産党はあちこちにヒビが入り、習近平体制そのものが揺らいでしまいます。産業補助金を出して経済を運営し、それによって大国の座を目指すのは、中国の「国体(national constitution)」なのです。

 アメリカの要求は、この中国の国体の部分にいきなり手を突っ込んだということなのです。中国からすれば、これはもう我慢できないという譲れない部分です。2019年8月に北戴河会議があり、それを目の前にしていたわけですから、当然この点を譲れるわけがありません。

―― 共産党の有力者がすべて集まるという会議ですね。

中西 はい。「なんとか習近平政治に文句を付けたい」という、長老や姑のような一番のうるさ型が集まってくる場所です。やはり彼らからすれば、補助金の問題での対米譲歩は習近平の自殺行為です。あり得ないわけです。

 かといって、今後中国は戦略的に対米譲歩をやめ、徹底抗戦路線で行くのかというと、そういうわけではありません。根本は、やはり「長期抵抗」の戦いを続けるということです。日中戦争の際に、中国軍は盧溝橋事件の後に上海が陥落し南京に逃げました。南京も日本軍に占領され、さらに奥地へ逃げていきました。「長期抗戦」は、その時に中国の国民党政府が使った言葉です。

 また、日本でも報道されましたが、習近平主席は国共内戦で国民党軍と戦っていた共産党軍の長征(Long March)のゆかりの地を訪れ...
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