平成時代の国際情勢を振り返る~冷戦終結から何を学ぶか~
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
かつての米ソ関係と現在の米中関係の違い
平成時代の国際情勢を振り返る~冷戦終結から何を学ぶか~
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
平成元年は冷戦終結の年だが、その後、ソ連の代わりに台頭してきた中国は、かつての米ソのような敵対しながら分かり合える関係には至っていない。平成から新たな元号に変わる2019年にあたり、平成時代の国際情勢を振り返り、未来に向けた国際秩序の在り方についてメッセージを送る。
時間:10分47秒
収録日:2018年12月26日
追加日:2019年2月6日
≪全文≫

●冷戦終結とともに始まった平成


 皆さん、こんにちは。平成30年がまもなく過ぎようとしております。平成元年というものを考えてみると、これは西暦では1989年、つまり冷戦終結の年にも当たります。冷戦終結から30年を機にして、昭和天皇の後を継いだ今上天皇(今の天皇陛下)がご退位されるということにもなり、日本人としては誠に感慨深いものがあろうかと思います。

 冷戦は、米ソの両超大国による核戦争の危機を常にはらんでいました。第一次世界大戦、第二次世界大戦のような熱い戦争ではなく、また、実際に大規模な戦争がグローバルで交わされたわけではありません。しかし、それはまぎれもなく中東やベトナムにおける局地的な戦い、実際の熱い戦争を伴って進行した世界大戦であったのです。いわば形を変えた世界大戦といっても良いでしょう。


●米ソ対立における不均衡の中の均衡


 しかし、米ソはお互いが最大の敵ではありましたが、かつてイスラエルとシリアの関係について私がなぞらえた表現を再び使うとすれば、「最大の敵でありながら、実は分かり合える最愛の敵でもあった」、このように言うことも可能な二国間関係でした。

 二つの国の間には、時に一触即発の状況に直面しながら、ぎりぎりのところではその状況をなんとか抑止し合う、阻止し合うというような論理が働いていたということも、よく知られていることです。キューバ危機はその典型的なものですが、基本的にはソ連の譲歩によって回避しました。二つの国はその後も大きな深刻な危機、脅威というものがありながら、それを世界大戦に発展させる道を取り除いてきたといえます。

 つまり、これはイデオロギーが違っても、超大国として似たような国家理性を持ち、お互いに引き出し合う利益について自覚的であったということを、意味します。米ソ対立にはいわば、「不均衡の中の均衡」があったといえるのです。

 とりわけ日本は、その中でもアメリカの核の傘や日米安保条約に保護され、経済成長に邁進できる客観的な条件を持つことができました。ある意味では、冷戦という名において進行していた世界大戦のわなを巧みに回避しつつ、日本は経済成長に多くの国家予算を投入し、そして、陣営を損なうことなく冷戦から利益を得てきた、いわば「冷戦の受益者」であったともいえます。


●ソ連解体で失われたもの


 ところが、冷戦終結後のソ連...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
日本人が知らないアメリカ政治のしくみ(1)アメリカの大統領権限
権限の少ないアメリカ大統領は政治をどう動かしているのか
曽根泰教
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博

人気の講義ランキングTOP10
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
今井むつみ
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
AIとデジタル時代の経営論(6)暗黙知と判断力
AIは「暗黙知・常識に基づく高度な判断」が不得意
一條和生
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
徳と仏教の人生論(2)和合の至りと正直
正直とは何か――絶対的存在との信頼関係の根幹にあるもの
田口佳史
編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?
なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(5)AIに記号接地は可能か
人間とAIの本質的な違いは?記号接地から迫る理解の本質
今井むつみ