テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

「心と感情」とは何か、行動生態学から考える大事な問題

心と感情の進化(1)そもそも「心と感情」とは何なのか

長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長/元総合研究大学院大学長
情報・テキスト
「心と感情」を分析したり定義したりするのは難しい。行動生態学から考えると全ての基礎は、動物は「動ける」ということだ。そのため、つねに新しい状況に直面し、そのつど何をするかを決めなくてはいけない。その行動選択と意思決定において、人間は「感情・情動」が大きく関わってくる。(全3話中第1話)
時間:11:02
収録日:2022/04/21
追加日:2022/07/31
カテゴリー:
キーワード:
≪全文≫

●心と感情とは何か?--行動生態学から考える


 総合研究大学院大学の長谷川です。今日は「心と感情の進化」というタイトルで少し考えてみました。このテーマは本当に大きいので、どういう切り口でどのように話すかですが、今回だけではなく、いろいろな話があると思います。

 心や感情がどういうものかというのは、皆さん、すぐに想像はつくでしょうし、すぐ思い浮かぶものもあると思いますが、実は結構難しいことです。何がどうしているのか、また脳の働きがどうなっているのかということは、とても複雑な問題だからです。

 人間も含め動物がどのように行動するかの基礎を探るのが動物の行動生態学ですから、これによって「心や感情とは何だろう」の答えを考えてみました。ここで大事なのは、動物は「動ける」ということです。動けるということは、動くに従っていろいろと状況が変わるし、その状況に応じて自分がまた動いて反応するということです。

 それを時々刻々やらなくてはいけないので、動物は常に自分が直面しているもろもろの状況において、どうやって生き延びるか、どうすれば繁殖できるかということの適切な行動選択をしていかないといけません。それには、たくさん情報を集めて、今の状態を把握し、いくつかある行動の選択肢の中から、「これではなく、これにしよう」と決めなければいけない。そういうことをしているのが神経系の働きです。

 神経系が中枢神経系としてもっと膨らんで塊になったものを「脳」といいます。脳のないミミズのような動物でも、神経系があるだけでちゃんと行動選択はしていきます。

 ここで非常に重要なのは、人間はすぐにものが分かったり理解できたりして考えることを必ずしてしまうので、そういうことをしないと生きていけないかと思ってしまうのですが、それは人間に近いほど脳の発達した、(進化の)後のほうの動物の話だということです。

 ミミズも昆虫も全て、いくつかの行動選択肢(こっちへ行くか・行かないか)などの中で一つの行動(こっちへ行く)と決めるのは、いわゆる感情とか情動です。

 逃げるのか・戦うのか、怖いのか・怖くないのか、交尾したほうがいいのか、食べにいったほうがいいのか、今これを食べたほうがいいのか・もっと探して別のものを食べたほうがいいのかなどなど、その場面における行動の選択肢がありますが、それをどうするかということは、人間でいえばいわゆる感情・情動がやっています。


●動物の行動における行動選択と意思決定


 一番大事なのは、(動物は)動くから、つねに新しい状況に直面し、そのつど何をするかを決めなくてはいけないということです。

 何をするのが最適であるかを決めるには、今の状況はどうかという情報を集めないといけない。そのためにいろいろな感覚器とリセプターがあって、情報が入ってくる。それに、過去の記憶も参照しないといけない。

 それから、自分の今の内的な状態も必要です。お腹がすいているのか・すいていないのか。健康なのか・少し病気っぽいのか。それから、いつまで生きられるのか・もうだいぶ(生命の)終わりに近づいているのか・それとも生まれたばかりで元気いっぱいの状態なのか。このような自分自身の生理的状況というのも情報の一部です。

 それから学習です。長く生きる生き物であれば、これまでの経験で、何が良かった・悪かったということが学習として記憶に入っています。そういうものも全部情報として利用しながら、判断しなければいけません。普通、動物において判断や査定をする基準は、今絶対に生き残るということと繁殖ができることになっています。


●メキシコユキヒメドリの研究と生き延びる上での意思決定


 いろいろな動物の面白い研究はたくさんありますが、その中でメキシコユキヒメドリという地味な鳥がいます。ネットなどで調べれば画像が出てきますが、その鳥を使った実験です。

 かごの中に入れておいて、一つの餌場はつつけば必ず2個餌が出る、もう一つの餌場はつつくと全く出ないかもしれないし、4個出るかもしれないという、ばらつきの大きいものにする。そうした二つの餌場を置いて、メキシコユキヒメドリがどちらを選ぶかということを調べました。

 すると、別にお腹が(非常に)すいているわけでもない普通のときは、必ず2個出る餌場を選びます。それはリーズナブルなことで、ごく普通の状態で少しお腹がすいたと思ったときにボタンを押すと、2個出てくることが保証されていれば、それはそれでいいことだからです。

 ところが、かわいそうな実験ですが、この鳥をどんどん飢えさせて、さらに寒くして、もう生き延びるのが大変だと思...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。