●生物は全てバリエーション――生物学で重要なのは「生きていること」
―― 質問1:子どもがゲイの場合、よく母親は「私の育て方が間違っていたのか」と嘆くことがあります。講義では「育て方よりも妊娠中に脳が男性化することによる」とお聞きしましたが、その理解でいいでしょうか。
長谷川 そうです。それに似ているのが自閉症の場合です。1960年代ぐらいには、「自閉症になるのは、母親が冷蔵庫のように冷たい人だったから、そうなったのだ」といわれていました。しかし、ASD(自閉症スペクトラム症)はそうではありません。発達の過程での脳の配線の問題で、一つのこともこだわって他のことが見えないというのは(脳の)配線のあり方の一つのバリエーションだと分かってきて、冷蔵庫母親仮説は否定されました。それと同じようなことをいわれているのではないかという気がします。
脳の働きは非常に複雑で、胎児期の10カ月から育っていく過程まで、とても多様で複雑なインプットがあって起こることなのに、母親の育て方が一個の原因というのは、あり得ないのです。
―― 質問2:例えばゲイの友人がそのことで苦しんでいる状況を見ると、生物学的にいうと男性化が完成しなかったという、まるで製品として不良品のようだという考え方もあるかもしれません。このあたり、どう捉えるのがよろしいでしょうか。
長谷川 私は、バリエーションだと思うのです。バリエーションというのは、いろいろな範囲で、とにかく「生きている」わけですから。生物学で一番重要なのは、まず「生きていること」。そして次に、「子どもがどう残るか」ということなのです。
生きているというのは、いろいろな障害を体に持つ人であっても、生まれて生きている人は、みんなすごいのです。それより前の受精卵のときに死んでしまったり、胎児で死んでしまったりするようなバリエーションもいっぱいあるのに、「生まれてきた」ということ自体、あるクリティカルなところを越えてできているので、これはすごいことなのです。
男性に起こる男性化(MasculinizationとDefeminization)も、女性のMasculinizationも、いろいろな範囲のなかであり得ることなので、「製品」としてどうこうという、何か「完成品」という一つの基準があると思っていること自体が、工場のようなことを生物に当てはめているのだと思います。
生物は全てバリエーシ...