心と感情の進化
この講義シリーズの第1話
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
ガッツ、群集心理…人間の認知能力と情動の自己制御の方法
心と感情の進化(3)脳の進化とこれからの課題
長谷川眞理子(総合研究大学院大学名誉教授/日本芸術文化振興会理事長)
人間の行動には、自己制御によって認知が強く作用するものから情動的なものまでさまざまで、そこにはグラデーションがある。また、人間には生存や繁殖には直接関わらないように見えるが、高度な能力がある。それは抽象化・一般化からカテゴリー化、概念化、入れ子構造の理解などだ。ここまで脳を進化させてきた人間だが、昨今AIの進歩やオンライン会議の普及などもあり、「心と感情」の問題はこれからどうなっていくのだろうか。(全3話中第3話)
時間:10分08秒
収録日:2022年4月21日
追加日:2022年8月14日
カテゴリー:
≪全文≫

●自己制御のメカニズム


 自己制御については本当にいろいろと難しいのですが、短期的報酬と長期的報酬があります。いわゆる「マシュマロ・テスト」のような問題ではないですが、例えば今すぐ目の前に(お菓子が)1個あり、それを取れば、おいしいでしょうからそうしたくなります(短期的報酬)。しかし、今はそのままにしておいて「明日まで待つと3個になる」と言われたら…。そういう長期的報酬はどう考えるかということもありますが、(先の)短期的な衝動的選択をしやすいのは、大脳辺縁系の真ん中のところの情動欲求の部分が、短期的に強い刺激選択欲求(の信号)を出すからです。しかし、前頭葉が自制心というものを働かせ、フィードバックして、どうするかを調整していく。そのような場所が、脳の中のどこにあるかということも、ずいぶん研究されています。

 このためのアルゴリズムでは、脳の真ん中の部分の大脳辺縁系が非常に情動的に、「何をしたい」「あれは嫌い」と(信号を)出すのですが、その上のほう(前頭葉)に出てきた新しい部分が、それを何とか一番いい形になるように制御しています。これが、心と情動の、人間における進化の結果なのでしょう。

 とはいえ、それが本当にいい選択かどうか、難しいところです。情動的なことは常に抑えて、フィードバックをかけたほうがいいのか。それとも情動は噴出させたほうがいいのか。いろいろな場面における(行動選択の是非は)すぐ分かるものではありません。

 だから、人間は過ちを繰り返すし、たまたま非常にうまくいくこともあります。そのように、認知が非常に強く関わって決める行動から、そんなものは吹っ飛ばして情動や反射だけで行ってしまう行動まで、そこにはとてもグラデーションがあります。


●人間に備わっている高度な認知能力


 最後に一つ。人間は生存と繁殖に直接は関わっていないように見える、いろいろな高度な(認知)能力を持っています。

 一つは、「抽象化、一般化」です。目の前の「このリンゴ」ではなく、それを「リンゴ」というものと一般化・抽象化して考えることができます。

 さらに「カテゴリー化」があります。「果物」というカテゴリーにすると...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「科学と技術」でまず見るべき講義シリーズ
社会はAIでいかに読み解けるのか(1)経済学理論の役割
AIやディープラーニングによって社会分析の方法が変わる
柳川範之
五島列島沖合の海没処分潜水艦群調査(1)目的と潜水艦史
海底に突き刺さる旧日本海軍の潜水艦「伊58」を特定!
浦環
培養肉研究の現在地と未来図(1)フェイクミート市場とリアルミート研究
食肉3.0時代に突入、「培養肉」研究の今に迫る
竹内昌治
進化生物学から見た「宗教の起源」(1)宗教の起源とトランス状態
私たちにはなぜ宗教が必要だったのか…脳の働きから考える
長谷川眞理子
性はなぜあるのか~進化生物学から見たLGBT(1)有性生殖と無性生殖
なぜ雄と雌の2つの性別があるのか…「性」の謎とLGBT
長谷川眞理子
断熱から考える一年中快適で健康な住環境(1)日本の住宅の実態と問題点
なぜ日本は夏暑く、冬寒いのか…断熱から考える住宅の問題
前真之

人気の講義ランキングTOP10
逆境に対峙する哲学(2)運命・世界・他者
「私をお母さんと呼ばないで」…突然訪れた逆境の意味
津崎良典
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割
豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割
黒田基樹
平和の追求~哲学者たちの構想(4)ルソーが考える平和と自由
ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想
川出良枝
熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために
夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎