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伝統木造建築はいま都市で必要な建物ではない

都市木造の可能性~木造ビルへの挑戦(1)木造建築の歴史と現在

腰原幹雄
東京大学生産技術研究所 教授
情報・テキスト
「これからの都市部の大型木造建築は、日本の長い歴史の中で類を見ないものになるだろう」と、東京大学生産技術研究所教授・腰原幹雄氏は語る。いったいどのような木造建築が増えていくのか。シリーズ「都市木造の可能性」第1回。
時間:14:26
収録日:2015/10/06
追加日:2016/01/28
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≪全文≫

●今の時代に必要な木造建築とは何か


 東京大学生産技術研究所の腰原です。今回は、木造建築について少しお話しさせていただければと思います。

 日本には法隆寺から1400年以上の木造建築の歴史がありますが、いま木造建築が見直されてきています。地球環境問題や日本の森林資源の活性化といった理由もありますが、伝統技術に新しい技術を加えることで、現代社会に適した木造建築が建てられるようになったことが大きく影響しています。

 一口に木造建築といっても、いろいろなものがあります。皆さんが木造建築といって頭に思い浮かべるものは、おそらく一人ひとり、他の人とは違うと思います。一番多いのは、法隆寺の五重塔、あるいは東大寺の大仏殿といった大きな建築物でしょう。京町屋、宿場町に並ぶ町屋建築、郊外に建つ茅葺屋根の農家型民家も木造建築です。これらは伝統木造建築と呼ばれ、社寺建築であれば宮大工の素晴らしい技術でつくられてきました。これは見方を変えると、森林資源が豊かな日本で、身近にある材料を使って建築をつくるという当たり前のことをやってきた歴史でもあります。

 伝統木造建築は、現在はやはり文化財としての価値が高くなり、釘や金物を1本も使っていない技術、木と木を組み合わせる木組みの技術がスポットライトを浴びていますが、法隆寺、東大寺大仏殿、京町屋、農家型民家などは、いま都市で必要とされる建物ではありません。建築は、時代ごとの生活スタイル、社会システムに応じて変化すべきもの。1000年前と同じ暮らしではありませんから、1000年前の建物は必要ないのです。つまり、木を使って今の時代に必要な建築をつくることは、いったいどういうことなのかを考える必要があるのです。


●多層の木造建築が少しずつ生まれている


 現代の東京にも実はたくさんの木造建築がありますが、多くは2階建ての木造住宅や、戦後に建てられた木造密集市街地です。なぜかといえば、1919年の市街地建築物法、1950年の建築基準法によって火災に弱い木造建築が都市部で制限され、大きく高い木造建築物がつくれない時代があったためです。都市には、5階建て、10階建てといったビルがたくさん建てられているのは、都市の地価が高く、経済性や効率性を考えると高密度で建物を建てていかなければならないからです。2階建てしか建てられない木造住宅では限界があり、都市部の木造建築はなかなか実現されませんでした。

 ところが2000年に建築基準法が改正され、多層の建築物も都市部に建てられるようになりました。地震や火災に対して安全な木造建築技術ができたことが理由です。残念ながら、こうした都市木造の技術革新の話をまだ皆さんがあまりご存じないこともあって、都市の木造建築はなかなか増えていないのですが、2011年以降、都市部でも4階建て、5階建ていった多層の木造建築が少しずつ生まれてきています。


●明治に大型木造建築がたくさん建てられた


 歴史上、都市の中に大型の木造建築がなかったかというと、そうではありません。江戸時代から明治に入り、都市の近代化が始まって、新しい産業が生まれた頃のことです。小規模な家内制工業から大規模な工場が生まれ、新しい建築が生まれました。宗教建築や酒蔵、醤油蔵といった家内制工業的な産業建築はそれまでもありましたが、近代化とともに規模が大きく変わっていったのです。

 西洋では、新しい近代建築を鉄とコンクリート、ガラスといった材料を使って実現しましたが、日本では、それまでつくり続けてきた木造建築技術を使う試みが生まれます。実は、4階建ての繭倉庫、5階建ての製粉工場など、いまでは見られない大型木造建築がたくさん建てられた時代があるのです。もし、こうした建築がその後も建て続けられていたら、木造建築がたくさん並ぶ都市の風景ができたかもしれません。しかし、建築基準法の制定によって、それは実現されませんでした。

 とはいえ、多層木造建築がつくられたのは、歴史的にはほんのわずかの間だけです。これからの都市部の大型木造建築は、日本の木造建築の長い歴史の中で類を見ないものになるでしょう。従来の木造建築と切り離し、新しい建築材料を使った木造建築として見た方がよいかもしれません。


●「地産都消」が重要になってくる


 今なぜ木造建築が脚光を浴びているかというと、地球環境問題でCO2の排出量を制限していく必要があるためです。森林は「地球の肺」と呼ばれるように、空気中の二酸化炭素を吸って酸素を放出しています。これは見方を変えると、木が成長する過程で、二酸化炭素を内部に閉じ込めているのと同じことです。その木を山で切っても、材木など木の形をしている間は、空気中の二酸化炭素を閉じ込めているのです。

 木でつくられた木造建築...
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