●山にはまだ在庫管理システムがない
では、都市で木造建築をつくるためには、どういったことを考えなくてはならないのでしょうか。木造建築は、実は関わる業種が多いという特徴があります。鉄骨造や鉄筋コンクリート造のような工業材料を使った建築では、どこでも、どんな材料でも基本的には手に入れることができ、机の上からインターネットで製品を選べば発注できます。ところが、木造建築に使う木材は自然素材ですから、何でも簡単に手に入るわけではありません。
残念ながら、木材の価格は下がってきており、輸送費をかけることも難しくなってきました。できるだけ近くで材料を仕入れることが重要になっています。地産地消が求められているわけです。一方で、残念ながら木材資源が豊かな地域と建築需要が大きい地域は異なりますから、結局、山の方では近くの山から都市部に木材を供給する必要が出てきます。
そのとき、都市部の方では、近くの森林にどういう資源があるか、どれくらい資源があるかを把握しなければ木材を適切に使えません。ところが、山にはまだしっかりとした管理システムがないのです。工業でいえば、在庫管理ができておらず、山にいったいどれほどの木があって、どれくらい産出できるのかが分からないのが現状です。
●木材の需要と供給のバランスがおかしい
次に問題になるのは、そこから出てきた丸太です。丸太を製材して、建物をつくるのですが、製材業は小さい企業の集まりですから、突然、都市部に大きい建築をつくりたいといってもすぐに材料を手に入れることができません。集約化・大規模化するという考え方もありますが、大きい建築がいつも建てられているわけではありません。建物の需要が変化するなら、大きい仕事は小さな企業が団結して取り組み、小さな仕事は個々に動く形態でよいのです。そうしてようやく木材工業から建築業に木材が供給され、木造建築が建てられます。
実はこの三段階、林業、木材工業、建築業の一連の流れは、川上、川中、川下と呼ばれていますが、この流れが整っていないことが木造建築の普及を阻害している原因です。山の人はどのような建築物がつくられるのかよく分からず、昔のような木造建築を前提に山で木を切り、製材しています。一方の建築業者からすれば、昔の和室や数寄屋造りの建築ばかりでなく、現代的建築が求められていますから、必要なのは昔の価値観の材料ではなく、現代の価値観の材料です。山の人が昔ながらの材料を出してくることに建築側は不満を持っています。新しい材料を入手することができないでいるのです。需要と供給のバランスがおかしくなっているわけです。
●循環を意識し産業構造を考える必要がある
もう一つは、コストの問題です。木造建築をつくるとき、発注者は建設業に頼みます。建設業は、自分たちの利益を考えて、材料をいくらで発注すべきかを考える。製材業は、発注金額の中でやりくりするか、断るかを選択しなければなりませんが、当然断るのは難しい。少し安めでも受けざるを得ません。すると、製材業は丸太を安く買うことに一生懸命になります。山の人は、売れないより売れた方がよいので、丸太を安く出す。その結果、山の人には、切ったあとに次の木材を生産するための木を植えるお金すら残らなくなってしまうのです。50年ほど木を育てた揚げ句、木1本当たり5000円といった金額になってしまっているのが現状です。
木材は、循環型の資源と言われています。山に木を植えて、切って、植えるサイクルと、切った木を使って、建物をつくって、使って壊すサイクル。この二つのサイクルが稼働することで、環境に優しい活動ができるのです。ところが、川下で利益を独占されてしまい、川上が循環のために投資できなくなると、資源の循環がうまくいかなくなってしまいます。循環を意識しながら産業構造を考えていくことも重要です。
●地方には都市の見本になる建築物が必要
では、地方都市で木材を使うためには何をしなくてはならないのでしょうか。先ほどもお話ししましたが、地元の山から出てきた木を使って建築物をつくる地産地消の活動は、これまで長く続けられてきました。しかし、社会構造の変化で地元の建築需要が減ってきて、山にある豊かな資源の使い道がなくなってきています。資源を外に売りに行かなければなりません。ですから、これからの地方都市には、都市部に売るための建築物、都市部の見本になるような建築物が求められます。地域に合った建築をつくるだけでなく、地方都市が大都市のショールームになり、「こんな木造建築ができるのだ」「あのような建築があったら自分たちの都市が豊かになる」といった魅力を伝える必要があるのです。広く日本や世界を見て木材を供給していく方法を考えなくてはなりません。
...