●近い将来、金属の供給の中核となるリサイクル
日本が地下資源のない国であることはよく知られていますが、それは今後、日本にとってそれほど弱点にはならないという、発想の転換の話を少ししてみたいと思います。3年くらい前に、レアメタルの輸出を中国が止めて、日本が大変な危機に陥ると言われました。しかし、当時10倍ぐらいに跳ね上がったレアメタルの値段は今、それ以前とそれほど変わらない4分の1ぐらいにまで落ちてきています。
これはなぜかと言うと、一つは、使う量をものすごく減らせる技術が開発できたからです。それからもう一つは、リサイクルをするようになったことで、トータルの需要がものすごく減ったからです。
特にリサイクルに関して言えば、今後、2030年、2040年、2050年あたりで、メタルの供給の中核となる時代が必ずくると思います。
●必要な鉄はスクラップでまかなう-拡大しつつある都市鉱山
これは、例えば鉄でもそうですし、金でもそうです。鉄の例で言うと、昨年、世界で14億トンの鉄鋼が作られましたが、そのうち、酸化物である鉄鉱石から酸素を取り除いて作った、つまり鉄鉱石を還元して作った鉄は10億トンでした。では、残りの4億トンは何から作ったかと言うと、スクラップなのです。
日本では自動車が1年間に500万台ぐらい廃車されていますが、それは野山に捨てられるわけではなく、回収されて、鉄をもう1回溶かして、新しい鉄として使っています。これがスクラップということですが、「都市にある鉱山」という意味で「都市鉱山」という呼び方もされています。鉄の場合は既に14億トンのうちの30パーセントの4億トンが都市鉱山だということです。
では、都市鉱山と鉄鉱石の比率は、今後どちらが大きくなっていくのでしょうか。これは大変重要な問題ですが、間違いなく都市鉱山が大きくなっていくのです。
以前、「人工物の飽和」についてお話をしました。日本は現在、100人に50台ぐらいの割合で自動車を持つようになりました。先進国はどこも自動車のトータルの台数が飽和しており、新車はその状況下で新しく出ていますが、これはつまり、スクラップになり廃車になった分だけ新車が出ているということになります。したがって、廃車の中に必要な鉄が入っているので、このスクラップにしたものから新車を作ればいいということになります。
この「人工物の飽和」が今の自動車やビル、橋や船にも行き渡った状態を考えてみれば、新しく必要な鉄は、スクラップが供給してくれるということになるわけです。
●スクラップと鉄鉱石-どちらが有益な資源か
では、スクラップと鉄鉱石のどちらがいい資源かという問題ですねが、これは一長一短があります。まず、一番重要なエネルギーの面から言うと、これはスクラップのほうがいい資源です。なぜかと言うと、鉄は空気中の酸素で酸化してしまうので、鉄鉱石は酸化された鉄ということになります。ここから酸素を取り除くのに、コークスを使うなどの形でエネルギーを消費するわけです。しかし、スクラップというのは、溶かせばいいのです。溶かすエネルギーと酸素を取り除くエネルギーとどちらが大きいかというと、理論的に見れば酸素を取り除くエネルギーのほうが27倍も大きいのです。ですから、スクラップを溶かすほうが安いので、都市鉱山は今でも利用されていますし、エネルギー消費が少ないという意味でも、都市鉱山のほうが有利ということになります。
では、鉄鉱石の有利な点は何かと言うと、純度が高いということが挙げられます。都市鉱山のほうが混ざりものがあります。例えば、電気の配線に使った銅が一緒に入ってきて溶けてしまうとか、表面処理に使ったスズが戻ってきて溶かすときに残ってしまうものがあります。不純物があるというのがスクラップの欠点なのです。
だから、今後はエネルギー的に有利なスクラップにどんどん比重が移っていきます。そのときに、都市鉱山を純度の高い原料とするため、不純物がなるべく混ざらないように、製品の設計や最後は市民の協力というようなことに至るまでのシステムを開発することが重要になってきます。
結局、人類はどちらに向かうかというと、都市鉱山に向かうに決まっています。そうでなければ、500万台の自動車を本当に海に捨てていくのかという話になりますが、人間はそれほどばかではありませんし、こちらを使えばエネルギーが減るということは分かっているわけです。ですから、長期で考えると、日本に金属資源がないということは、決してマイナスにはならないのです。