セルロースナノファイバーとは
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
TEMPO酸化によってどんなセルロース関連物質が得られるか
セルロースナノファイバーとは(5)TEMPO酸化の革新性
科学と技術
磯貝明(東京大学特別教授/東京大学名誉教授)
磯貝明氏の研究室は、「TEMPO酸化」と呼ばれる手法を用いたセルロースナノファイバーの生成について研究している。セルロースを工業素材として実用化するためには、安全で安価な反応経路を突き止める必要があったが、TEMPO酸化はその条件を満たす画期的なものであった。(全7話中第5話)
時間:9分07秒
収録日:2019年11月8日
追加日:2019年12月25日
≪全文≫

●TEMPO酸化という方法をセルロースに適用したきっかけ


 それでは、CNFの中でも、当研究室が開発したTEMPO酸化型セルロースの調整とナノファイバー化についてお話しします。

 もともと私たちの研究室は、ナノファイバーをつくるための研究をしていたわけではありません。これまでにお話しした通り、セルロースは大変反応させづらく、溶かしづらい素材であることを実感していました。その中で、1995年にTEMPO触媒酸化という反応に関して、ある雑誌にオランダの研究グループの投稿が掲載されたことを知りました。

 セルロースは非常に反応しにくい素材でしたが、この反応は、スライドに書いてある通り、有機溶剤を使わない水系で、常温常圧で進み、さらに触媒として用いる薬品量も少なくて済むものでした。これは、私たちの体の中の触媒反応、酵素反応に類似した反応だと感じました。その当時のモチベーションとしては、これを用いて何かをつくるというよりも、糖化学の基礎領域を広げられるのではないかと思い、この反応をセルロースやキチンのような糖類に適用してみました。

 TEMPOとは、「2,2,6,6テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル」という物質の略称です。これは、市販されていて、水可溶性であり、しかも短期間の変異原性、つまり発ガン性に関する試験であるエームズ試験は陰性であることが報告されています。これを水系で処理すると、セルロースのブドウ糖ユニットにある一級水酸基であるCH2OHが、選択的に酸化され、カルボキシ基のナトリウム塩になることが分かりました。


●TEMPO酸化の適用でセルロースの完全ナノ分散化が可能に


 この反応をセルロースに適用したところ、幅が0.03ミリメートル、つまり30マイクロメートルで長さが3ミリメートル程度の製紙用の植物セルロース繊維をTEMPO触媒酸化すると、酸化の前後で繊維の形が変わりませんでした。こちらが酸化前の植物セルロース繊維です。長さ3ミリメートルほど、幅が0.03ミリメートルほどで、繊維の形態を見て取ることができます。これをTEMPO酸化すると、白くはなりますが繊維の形態は維持しています。最初は、カルボキシ基が入ったにもかかわらず水にも溶けず、膨潤もしないので、この反応はあまり面白くないと思っていました。

 しかし、...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「科学と技術」でまず見るべき講義シリーズ
未来を知るための宇宙開発の歴史(1)宇宙開発の流れを概観する
宇宙開発の歴史、そして未来へ…6枚の写真で概観する
川口淳一郎
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
本当によくわかる「量子コンピュータ入門」(1)量子コンピュータとは何か
「量子コンピュータ」はどういうもので、何に使えるのか
武田俊太郎
進化生物学から見た「宗教の起源」(1)宗教の起源とトランス状態
私たちにはなぜ宗教が必要だったのか…脳の働きから考える
長谷川眞理子
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子
ヒトの性差とジェンダー論(1)「性」とは何か
MLBのスーパースターも一代限り…生物学から迫る性の実態
長谷川眞理子

人気の講義ランキングTOP10
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
川口淳一郎
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す
狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き
長谷川眞理子
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化
デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
齋藤純一
定年後の人生を設計する(1)定年後の不安と「黄金の15年」
不安な定年後を人生の「黄金の15年」に変えるポイント
楠木新
知識創造戦略論~暗黙知から形式知へ(2)イノベーションとプロセスの質
「プロセスの質」こそがイノベーションの結果を決める
遠山亮子