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先端材料としてのセルロースナノファイバーの応用分野は?

セルロースナノファイバーとは(6)CNFの特性

磯貝明
東京大学特別教授
情報・テキスト
セルロースナノファイバーは、どのような特性を持っていて、どのように私たちの生活に役立つのであろうか。磯貝明氏が、セルロースナノファイバーが持っているさまざまな特性と、その応用例に関して、豊富な研究成果とともに紹介する。高強度の材料や、包装用のフィルム、フィルターとして用いることができるだけではなく、高分子との複合化によってさらなる用途を見いだすことができるポテンシャルも持っている。セルロースナノファイバーは、さまざまな分野に発展をもたらす、まさに夢の新素材なのである。(全7話中第6話)
時間:15:31
収録日:2019/11/08
追加日:2020/01/08
≪全文≫

●軽くて高強度なセルロースナノファイバー


 次に、TEMPO酸化セルロースナノファイバーの特性について紹介します。

 セルロースナノファイバーは、鉄の5分の1の比重で、強度は5倍といわれています。確かにこの強度マップを見ると、鉄よりも強いことが分かります。破断強度とは、引っ張った際にどの程度の強度でちぎれるかを示す指標であり、引張弾性率は、引っ張った際にどの程度の強度で変形するかを示した固さの指標です。

 セルロースナノファイバーの場合は分子を引っ張ることになるので、この程度の強度のポテンシャルがあることは確かです。ですので、適正にナノファイバーを用いることができれば、鉄よりも軽くて強い材料に変換できるのは事実です。ただし、そこにはいくつか超えなければならないハードルがあるので、ナノファイバーを用いれば、すぐにこうした材料が作れるというわけではありません。

 もう一つの特徴は低い熱膨張率です。高分子とは異なり、ナノファイバーは結晶の塊なので、加熱しても伸びることがありません。つまり、分子が数十本集まって、加熱してもそれはバラバラにはならないので、熱膨張率が低いのです。例えば、プリント基板などは、加熱しても断線しないように、ガラス繊維やガラスの粉のようなものであるシリカが用いられており、その分、重くなっています。それと同程度の熱安定性、寸法安定効果がセルロースナノファイバーにはあります。ポテンシャルとしては、うまく電子基板と組み合わせることができれば、軽くて安定な電子基板をつくることができます。


●包装用の容器やフィルターの材料として利用することができる


 もう一つ特徴的だったのは、ペットボトルに用いられる、ポリエチレンテレフタレート(PET)との関係です。PETは整形材料として頻繁に用いられますが、面白いことに酸素をスカスカと通します。酸素バリア性がないということです。しかし、酸素バリア性を求められるものは結構あります。例えば、食品や酸化されやすいお茶やコーヒーなどの飲料、お茶の葉やコーヒー豆、薬などが挙げられます。酸化して劣化することが多いので、酸化を防ぐために、酸素バリア性の高いパッケージングフィルムを用いることが重要になります。その際に、セルロースナノファイバーを薄く塗ると良いのです。

 これがその例になります。ポリ乳酸という生分解性のプラスチックに、薄くセルロースナノファイバーを塗ると、透明性は維持しながら、酸素の透過度がグッと下がります。酸素バリア性が出るということです。したがって、環境に優しい透明パッケージングフィルムとして、食品や医薬品の有効期限を伸ばすことができる可能性があります。特に開発途上国では、食品や医薬品の確保は課題となっています。こうした国で用いられる包装材料はほとんど再利用されずに、使用後は燃やされます。

 そのときに石油系のものを用いると二酸化炭素の増加につながりますが、バイオマス由来であればカーボンニュートラルなので、二酸化炭素の増加には寄与せず、なおかつ高性能の食品や医薬品の有効期限を延ばせるということで、注目されています。セルロースナノファイバーがぴっちりと隙間を埋めているために、酸素を通すことがないというメカニズムも、いろいろな分析によって分かってきました。

 このフィルムは透明で、強度が高く、線熱膨張率が低く寸法安定性が高く(すなわち加熱しても変形しにくい)、酸素を通さないなど、いろいろな特性を持っています。

 それから、乾燥方法によって、透明高強度の断熱材となります。透明な断熱材としてはシリカエアロゲルが代表的ですが、シリカは粉体なのでポロポロと崩れやすく、すごく脆い物質です。それに対して、こちらのフィルムは曲げても強度が出せます。また、断熱性は今後、省エネの住宅、車、宇宙や航空関係の開発で非常に重要となってくる特性です。加えて、透明であるという特性から、非常に大きなポテンシャルを持っているということです。

 次に、ガラス繊維です。セルロースナノファイバーの特徴として、作り方によってさまざまな機能が出せることが挙げられます。断熱性を持つ以外にも、例えばクモの巣状のネットワークはPM2.5の捕捉用のエアフィルターに用いることができます。これは、北越コーポレーションが懸命に開発に取り組んでいます。それから先ほど説明した通り、透明な酸素を通さないフィルムにもなります。こうしたもの全てに、ナノファイバーの構造的な特徴が現れているといっていいと思います。

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