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ナノセルロースへの注目度が高まった4つのブレイクスルー

セルロースナノファイバーとは(3)ナノセルロースへの変換

磯貝明
東京大学特別教授/東京大学名誉教授
情報・テキスト
木質セルロースから実際に素材として使えるナノセルロースへの変換過程には、安全性、コスト、質の高低など、さまざまな問題がある。そんなセルロースには大きく分けて4つの種類があり、それぞれ形状や生成方法に短所と長所があるという。そうしたなか、世界各国でさまざまな研究が行われた結果、4つの重要なブレイクスルーが起こり、材料としての実用可能なレベルにまで進展してきている。(全7話中第3話)
時間:12:15
収録日:2019/11/08
追加日:2019/12/11
≪全文≫

●セルロースの中身とその利用に向けた研究


 それでは、改めて木質セルロースからナノセルロースへの変換についてお話しします。

この図にあるように、植物は自分の身を守り、かつ重力に逆らって自分の体を支え、風雨に耐えるために、極めて精緻な段階構造を持っています。左側の木材や、それを顕微鏡で見たパイプ状のものの集合体は、ご覧になったことがあるかもしれません。このパイプ上のものを一本ずつバラバラにしたものがパルプ、あるいはセルロース繊維と呼ばれているものです。これをすき直してシート状にしたものが紙です。

 さらに細かく見ると、繊維の中にはまた細かい繊維があり、一番小さいレベルはセルロース分子という先ほど見たようなブドウ糖が直鎖状につながった高分子です。その次に小さいレベルが、学術的には「セルロースミクロフィブリル」と呼ばれているものです。これは、セルロース分子が30本から40本ほどまっすぐつながっています。まっすぐ分子をつなげることは、合成ではなかなかできません。合成繊維は必ずどこかで曲がってしまうのが欠点です。植物はゆっくりですが、まっすぐ分子を並べることができるのです。しかも、この幅は3ナノメートルで、カーボンナノチューブよりも少しだけ太い幅です。非常に精緻なナノファイバーを植物はつくって、それで自分の体を支えているのです。

 このセルロースミクロフィブリルは地球上で最大の蓄積量、年間生長量のバイオ系ナノファイバーですが、これを左側の緑の太い1本とすると、セルロースミクロフィブリル間は無数の水素結合でしっかり結合しているので、これまでこれを剥がしてセルロースナノファイバーとして利用することはありませんでした。

 ところが不思議なことに、今世紀に入って、特に北欧、北米、日本など森林資源が国策の国でナノセルロースの研究開発が進められてきました。日本では京都大学農学研究科教授の矢野浩之先生の先導で、2002年前後からこうした研究が進められています。


●セルロースナノファイバーの実用化につながる4つのブレイクスルー


 昔から、セルロースミクロフェブリルが一番細かいレベルとして植物を支えていることはわかっていたのですが、効率的にダメージなく一本ごとバラバラにすることができませんでした。しかし、今世紀に入って、いくつかのブレイクスルーがあったと考えられています。

 一つ目は、効率の良い機械的なフィブリル化装置の開発です。二つ目は、それでもまだエネルギー効率が良くないので、原料となる植物セルロースを化学的に前処理することによって、消費エネルギーを下げる試みです。このあと紹介する当研究室のTEMPO触媒酸化は、この中の一つです。

 三つ目ですが、植物からこのようなナノファイバーができたという論文が出ると、今度は工学系や産業界から何か複合化して新しいものをつくろうという機運が起こってきました。今までのカーボンナノチューブや金属ナノワイヤーのテクノロジーに基づいて、こうした発展は生まれます。通常はAという物質とBという物質を混ぜただけだと中間程度の特性しか出ないのですが、ナノ材料効果があると1+1は2ではなく、特殊な機能が出る場合があります。

 さまざまな分野の研究者が、無機、高分子、天然高分子などの材料と複合化して観察すると、四つ目ですが、ある分野では図の下のほうに書いてある通り、非常に高強度を示しました。あるいは耐熱性や酸素の非透過性、触媒機能、導電性の発現など、通常のセルロースの紙のイメージを超える性質を示しました。これは先端材料として使える、新たなナノ材料ではないかと注目されて一つのブームとなりました。

 これらの4つのブレイクスルーによって、ナノセルロースが注目される時代が到来したといえるでしょう。

●ナノセルロースの分類とそれぞれの長所と短所


 ナノセルロースを形状で分類すると、この4つに分けることができます。一つ目は、ミクロフィブリル化セルロースです。これはナノレベルではなく、ミクロンレベルですので、光の波長よりも大きい塊があるので、牛乳のように白く見えてしまいます。ちょうどここにサンプルがあります。ナノレベルまでには至っていませんが、沈殿することはありません。これがミクロフィブリル化セルロースです。

 次が、フィブリル化セルロースナノネットワークです。これは、完全に透明ではないのですが、先ほどのミクロフィブリル化セルロースに比べると透明です。しかし、形を見ると太いものがあったり細いものがあったりします。ナノセルロースの定義とは、幅が100ナノメートル以下となっています。したがって、ナノセルロースの範疇には...
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