●セルロースの中身とその利用に向けた研究
それでは、改めて木質セルロースからナノセルロースへの変換についてお話しします。
この図にあるように、植物は自分の身を守り、かつ重力に逆らって自分の体を支え、風雨に耐えるために、極めて精緻な段階構造を持っています。左側の木材や、それを顕微鏡で見たパイプ状のものの集合体は、ご覧になったことがあるかもしれません。このパイプ上のものを一本ずつバラバラにしたものがパルプ、あるいはセルロース繊維と呼ばれているものです。これをすき直してシート状にしたものが紙です。
さらに細かく見ると、繊維の中にはまた細かい繊維があり、一番小さいレベルはセルロース分子という先ほど見たようなブドウ糖が直鎖状につながった高分子です。その次に小さいレベルが、学術的には「セルロースミクロフィブリル」と呼ばれているものです。これは、セルロース分子が30本から40本ほどまっすぐつながっています。まっすぐ分子をつなげることは、合成ではなかなかできません。合成繊維は必ずどこかで曲がってしまうのが欠点です。植物はゆっくりですが、まっすぐ分子を並べることができるのです。しかも、この幅は3ナノメートルで、カーボンナノチューブよりも少しだけ太い幅です。非常に精緻なナノファイバーを植物はつくって、それで自分の体を支えているのです。
このセルロースミクロフィブリルは地球上で最大の蓄積量、年間生長量のバイオ系ナノファイバーですが、これを左側の緑の太い1本とすると、セルロースミクロフィブリル間は無数の水素結合でしっかり結合しているので、これまでこれを剥がしてセルロースナノファイバーとして利用することはありませんでした。
ところが不思議なことに、今世紀に入って、特に北欧、北米、日本など森林資源が国策の国でナノセルロースの研究開発が進められてきました。日本では京都大学農学研究科教授の矢野浩之先生の先導で、2002年前後からこうした研究が進められています。
●セルロースナノファイバーの実用化につながる4つのブレイクスルー
昔から、セルロースミクロフェブリルが一番細かいレベルとして植物を支えていることはわかっていたのですが、効率的にダメージなく一本ごとバラバラにすることができませんでした。し...