●自動運転の実用化に向けた課題はたくさんある
今回は、自動運転の実用化に向けた実験に関して、お話をします。
自動運転の実用化に向けては、まだまだ課題がたくさんあります。それは、研究開発であったり、法整備であったり、あるいは倫理観の共通理解であったり、たくさんの課題があります。そのような課題がある中で、私が今、東京大学あるいは共同研究をしている大学や研究機関と、普段どのような実験をしているか、お伝えしていきたいと思います。
●第1の実験:セーフティードライバーを同乗させて行う
今一番多い実験のパターンについて、まずお話をします。
無人で車を走らせることは、今の社会において手軽にはできません。自動運転システムを搭載していて、コンピューターから車を操作できるように改造された車そのものは、今も存在します。しかしながら、いきなり運転席を無人にするという実験は、あまり頻繁に行われていません。現在多いタイプの実験では、セーフティードライバーといって、実験の安全性を確保する実験の責任者、あるいは専用のドライバーを、運転席に乗せて行うというものです。
映像は、実際に自動運転車が周りをどのように認識しているかを示しています。例えば、料金所を通り抜けて高速道路を一直線に走ろうとしているとき、横からトラックが走ってきたとします。この場合、自動運転車は、実際にセンサーやAIを使ってトラックを認識した上で速度を落とします。映像では、左車線をずっと走っていますが、緑色の線は自動運転車が走るルートになります。自動運転者がこれから走るルートを自らルーティングしているのですが、そのところを見やすいように緑でハイライトしています。こうやって高速道路を走っていき、愛知県にあるセントレアという空港に向かっています。そして、高速道路から降り、一般道路をまた走るというわけです。
この実験では、実際に周りにいる車は、スタッフの車ではなく、一般車両です。自動運転車には一応、「自動運転をしています」というステッカーを貼っています。ですが、路上でこの車が自動運転しているとはおそらく周りを走る運転手さんも分からないくらい、かなりなじんだ状態で実験をしています。この実験は、私たちの研究室あるいはベンチャー企業、それから共同研究している企業、そういった皆さんと一緒にやっていますが、かなり完成度の高い実験の部類に入ります。ここでは、市街地から高速道路に入り、また市街地を通って空港に向かうという、リアルな想定をして自動運転の実験を進めているときの記録を紹介しています。
実験では、微妙なカーブであっても、ステアリングを細かく制御して、真ん中の車線をしっかり走れるように制御しています。自動運転の方法や技術そのものについては別の機会があればお伝えしたいと思います。今回紹介しているのは、こういった自動運転システムにおける自分たちの研究成果、ないし開発成果ですが、普段は、市街地から高速道路を経由してまた市街地に戻り今回の空港のような特定の場所に行くといったシナリオを決めて実験をすることが多いと思います。これは、完成度の高い実験ではあるのですが、異なった環境を交えて、交通量もある程度ある中で行っている実験ですので、難易度としては高い方だと思います。
●第2の実験:実際の社会のオペレーションを行う
続いて、また別の実験を紹介したいと思います。
先ほどは、自分たちでシナリオを決めて、自分たちの車を走らせるという実験をしていました。今度は、もう少しリアリティーの高い実験をしようと思った場合の実験で、実際の企業さん、あるいはサービス事業者さんと手を組んで実験をするというパターンです。
映像は、日本郵便さんと組んで、そこが実際に普段行っているオペレーションを自動運車にやらせてみるという実験です。これは、ある郵便局からもう一つのある大きな郵便局に行く途中、いくつかの小さい郵便局に立ち寄って、郵便物を回収していくというオペレーションになります。ルートとしては、霞ヶ関から新橋や銀座あたりを通っていくという、普段のルートに限りなく近いものを選定しています。
映像を見て分かるように、自動運転車が実際に自分で脇道に入っていき、車を止めて、郵便局のある支局から荷物を回収している状況になります。そして、トランクに荷物が増えた状態で、次の支局にまた立ち寄っていきます。これは先ほどと違い、一旦停止していますので、また元の車線に戻るときに割り込んでいかなければなりません。このように、普段自分たちだけで実験をやっているとあまり遭遇しないようなシーンにも出くわしますので、そうしたこともやはり自動運転でできないといけません。ということで、自分たちの実験の要求もどんどん高まっています。...