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セルロースには変換プロセスのブレイクスルーが不可欠

セルロースナノファイバーとは(2)変換プロセスの問題

磯貝明
東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻 教授
情報・テキスト
今回の講義では、植物の要素とその用途について詳細な解説を加える。植物の主成分は大きく分けて3種類の要素から形成されており、それぞれに特有の性質や用途がある。その中でも、セルロースは環境適応性が高いために、新たな素材として着目されている。しかし、セルロースを利用可能な素材にするプロセスで環境に負荷がかかるなど、乗り越えていかなければならない壁はいまだ存在する。そうした問題を解決する方策として、現在の最適なセルロースの利用法は考えられている。(全7話中第2話)
時間:11:08
収録日:2019/11/08
追加日:2019/12/04
≪全文≫

●植物成分の構成とそのさまざまな性質の違い


 続いて、植物成分の構造と特性に関して、簡単に説明します。簡単にいうと、植物はおよそ9割が主成分、1割が副成分です。この1割の中には、例えばお茶のカテキンや人間を殺傷することができるトリカブト、量によっては薬にもなる非常に貴重な成分も含まれています。残りの9割は主成分で、セルロース、へミセルロースという多糖類、そしてリグニンという複雑なベンゼン環を持った物質から形成されています。重量からいうと、主成分のおよそ半分がセルロースです。したがって、セルロースは地球上で最大の蓄積量および年間生産量のバイオマスということができます。

 このリグニンという物質は、取り扱いは厄介ですが、大変重要な役割を果たします。植物の生命維持のために、このようなベンゼン環を持った物質がつくられます。多糖類であるセルロースとヘミセルロースは酵素でつくられます。酵素でつくられたものには、必ず可逆反応があり、すなわちセルロースであればセルラーゼという分解酵素、ヘミセルロースであればヘミセルラーゼという分解酵素があります。

 リグニンはラジカルカップリングという有機化学反応で最終的につくられます。私たちが直面しているゴミの問題の原因となっているもの、要するに人間が化学反応でつくったものは生分解性がないのですが、そうした物質を植物が自らつくり出す、つまりリグニンを分解する酵素がありません。それは先述のように化学反応でできているからです。よって、セルロースとヘミセルロースは微生物によって生命維持のためのエネルギー源となりますが、リグニンは分解されずに最終的には石炭や石油といった、現在私たちが用いている化石資源のもととなっている安定な物質だと考えられています。

 次のページで化学構造を簡単に紹介しています。詳細は省きますが、セルロースはこのようにブドウ糖がつながった規則正しい構造をしています。少し構造が異なるブドウ糖からできているデンプンは、私たちがエネルギーとすることができますが、人間はセルロースをエネルギーに変えることはできません。身の回りのものとしては、紙やセルロース繊維、つまり綿繊維、および液晶ディスプレイ用のフィルムなどに用いられています。このように、身の回りの先端材料にも用いられているのが現状です。

 それから、針葉樹のヘミセルロースであるグルコマンナンは、コンニャクマンナンと同じ構造をしています。これには、それほど大きな利用分野はありません。広葉樹の主要なヘミセルロースであるキシランは、お聞きになったことがあると思いますが、虫歯にならない甘味料として用いられるキシリトールに変換されて、世界中で販売されています。

 右側のリグニンは、六角形のベンゼン環を持った疎水性の物質です。炭素含有量が高いので、燃やすと高いエネルギー効率を示します。そして生分解性が低く、石炭の原料となると考えられています。また、キノコは頭がよく、セルロースやヘミセルロースを食べる際にリグニンは邪魔になるので、リグニンを酸化的に分解することができる種類もあります。

 構造も不均一なので、化学素材としてリグニンを利用することに、多くの研究者が苦労しています。世界中で研究されていますが、大きなブレイクスルーにはまだ至っていません。しかし、近い将来、大きな成果が出てくるのではないかと期待しています。


●セルロースには素材として用いるための変換プロセスに大きな課題がある


 それでは、バイオマスとしてのセルロースの長所と課題についてお話しします。セルロースを扱っていない石油系の企業の中には、「セルロースは再生産可能な植物由来の素材で良いですね」という方が多いのですが、実際扱ってみると、大変扱いにくい素材です。そもそも植物が自分の身を守るために分解されづらいようにつくられているので、なかなかそう簡単に利用することはできません。長所としては、ここに挙げたように、化石資源と異なり循環型社会に対応できる、環境適応性がある、植えれば必ず再生産可能であるので化石資源のように一方的になくなることはない、しかもデンプンと異なり食べ物にならないので、使途に関して競争が起こらないなどの点があります。

 良いことずくめのように思われますが、自分の身を守るために非常に安定的な構造をつくっているので、化学反応を起こしづらく、溶かして繊維にしたりフィルムにしたりすることが難しい素材です。日本では戦前、戦後に衣食住の衣の部分を支えるために、レーヨン産業の発展が国策となったのですが、今では日本からほぼ全て撤退してしまいました。繊維としては非...
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