●イオンエンジンの基本構造
次の過程が、イオンの加速です。そのためには、イオンをこのプラズマの部屋から抜き出す作業が必要になります。
基本的な原理としては、まずプラズマをつくっている原子に非常に高い電圧をかけます。そしてイオンを抜き出すために、容器についている薄い2枚の板のうち、下流側、つまり外側の板に負の電圧をかけておきます。こうして大きな電圧差を作っておくと、プラズマの正性質の中にあるイオンだけが外側に出ていきます。電子自体はプラスに引きつけられ、マイナスと反発する性質があります。電子が出ていこうとしても、弾かれて中に戻ってしまうので、プラスだけでは外に出ていくようになります。上のスライドは模式図です。
実際のイオンエンジンがどのようになっているかというと、2枚の薄い板があり、そこに蜂の巣状に穴が空いています。上流と下流があるので、2つの穴がぴったりそろうようになっています。
この穴の断面を見たのがこの図です。このスライドの右にある図では、左側が上流となるプラズマ生成側の板で、右側が外側の板を示しています。そして黄色い線で書いてあるのが、イオンが飛んでいく方向を簡易的な計算によって示したものです。イオンが外側にある板に引きつけられて真ん中に集まり、うまく壁に当たらずに外側に出て行く様子が描かれています。うまく壁に当たらずにイオンだけが外に出て行くように、両者の穴や位置関係を調整してあります。
出て行くときの速度は、この2枚の板の電位差によって決まります。この電位差を大きくすれば、外に速い速度で出て行くことができます。
●イオンを取り出すと、電子が引き戻す作用を起こしてしまう
こうしてイオンだけを取り出して終わりかというと、そうではありません。もう一つ重要な段階があります。イオンと同数の電子を出さなければならないのです。その役割を行うのが「中和器」と呼ばれるものです。
仮に中和器がないと何が起きるかということを考えてみます。
イオンが外に出ていくと、源であるプラズマの中、あるいは探査機全体として見たとき、電子が残っていきます。そうすると、プラスマイナスのバランスが崩れてしまいます。電子は基本的にイオンを引きつける性質を持っているので、残された電子は、出したイオン全てを引き戻すような作用を持っています。そうすると、全てのイオンが戻ってきてしまいます。しかも、戻ってくる速度が非常に速く、一般的な探査機の大きさやイオンエンジンのサイズ感を考えると、1000分の1秒もしくは100分の1秒というスケールです。そうしてイオンが全て戻ってきてしまうので、電子を外に出さないと、イオンをまともに排出できないという状況になります。
●中和器によりイオンと電子が同数吐き出される
そこで、中に電子がたまらないように、先ほどのイオンを吐き出した装置とは別に、中和器と呼ばれるものを用意します。そこから電子を出すと、スライド中の赤い矢印のような電流の道筋ができます。電源として電池の絵が書いてありますが、何かの電源として考えてください。電流の向きと電子の向きは逆ですので、このプラズマ生成室から、電子は壁に入り、バッテリーの中に入っていきます。そして、イオンの動きと電流の向きは同じなので、このプラズマ生成室から外にイオンが出ていきます。さらに中和器の部分では、電子が外に出て、イオンが壁に当たり、壁で電子と結合し中性分子に戻るという、少し厄介なことをしていますが、この銅線の中を電子が流れています。
途中で、電流を担うキャリアがイオンになったり電子になったり変わるのですが、電流の道筋としては1つのループを描くことで、探査機のエンジン自体は中性を保つことができます。外側に、同数のイオンと電子を吐き出すことができるのです。
その点で、この中和器は必須です。
●イオンエンジンの実用化は2000年代から本格的に行われている
イオンエンジンはこのような仕組みなのですが、2000年代くらいから本格的に実用化され、ご存じの方も多いかと思いますが、はやぶさの1、2両方で、イオンエンジンが活躍しています。
これがイオンエンジン...