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ルメートルの「動的な宇宙モデル」は膨張宇宙論の先駆け

「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(6)動的宇宙解と宇宙膨張の発見

岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授
情報・テキスト
ジョルジュ・ルメートル
アインシュタインの一般相対性理論から「膨張したり収縮したりする宇宙」を導き出したフリードマン。若くして亡くなったため、アインシュタインとの論争には発展しなかったが、その後、膨張宇宙論の先駆けとなるルメートルの「動的な宇宙モデル」に対して、アインシュタインは強い拒否感を示したという。しかし、その2年後、エドウィン・ハッブルによって宇宙膨張の発見が報告されることになる。彼らは動的な宇宙について、それぞれどのように理論を発展させていったのか。(全12話中第6話)
時間:12:02
収録日:2020/08/25
追加日:2021/01/16
ジャンル:
≪全文≫

●フリードマンが導いた「膨張したり収縮したりする宇宙」


 (前回、動的な宇宙が一般相対性理論から予測されたのですが、)これはどういうことか。前回ちらりと言いましたが、アインシュタイン方程式を使い、一様等方そして平均的に宇宙全体を取り扱おうとした場合は、ある解が求められます。「フリードマン・ルメートル・ロバートソン・ウォーカー計量」と呼ばれるものです。

 そこに物質の状態方程式を使い、ロシアのアレクサンドル・フリードマンが1922年に、ある方程式を導きました。それがスライド右側にあるオレンジの枠でくくられたところの方程式なのですが、前回お話したアインシュタイン方程式よりはかなり分かりやすい形をしている微分方程式です。これは何を意味しているかというと、要するに一様等方宇宙が時間発展するということを示す方程式なのです。

 そして、その解が右下の図で示されています。宇宙全体の大きさを示すa(t)が縦軸の単位になっています。横軸の単位は時間です。a(t)は「宇宙のスケール因子」といいますが、これは時間の関数として、いろいろと変化してしまうということが分かってしまったのです。そして、この変化の具合が、三つのパラメータで決定されるということまで分かってしまいました。

 三つのパラメータについてですが、まず「密度パラメータ」(Ω)は宇宙全体の質量の多さ(質量密度の多さ)を示す量です。二つ目は「宇宙の曲率」(k)で、これは宇宙が閉じているか、開いているかを表すパラメータです。三つ目は「宇宙定数」(Λ、ラムダ)です。

 実際のところ、フリードマンが1922年に求めた解では、宇宙定数は考えていませんでした。なので、右下の図でいうところの、黄色とオレンジと赤のグラフが「フリードマン宇宙」と呼ばれるものです。

 これを聞いたアインシュタインは、とても怒ったらしいですね。そんなことはないだろうと。解としてはあり得るけれども、物理的にそういうことはあり得ない。なぜかというと、アインシュタインは、宇宙とは定常的に恒久的に存在しないといけないという信念の持ち主でありましたから、定常的な宇宙以外は受け入れられなかったのです。よって宇宙が膨張したり収縮したりするのは困るわけです。だからこそ宇宙項を入れたのです。

 ということで、アインシュタインはとても怒りました。フリードマンは数学者ですから、数学の解としてはあり得るけれども、「物理的にはないだろう」と強く主張したらしいのです。

 ただ、フリードマンはこの後すぐ、若くして亡くなってしまうので、アインシュタインとの論争には発展しませんでしたが、「膨張したり収縮したりする宇宙」を(最初に)導き出したのはフリードマンでした。


●膨張宇宙論の先駆けとなるルメートルの「動的な宇宙モデル」


 また別の人が同じようなことを言い始めます。ジョルジュ・ルメートルといって、ベルギーでキリスト教の司祭という仕事を選んだ人です。ただ天文学、宇宙物理学に興味があって、そちらの勉強もやっていました。それが高じてイギリス留学までしてしまうのですが、そこで一般相対性理論などをアーサー・エディントンという有名な学者の下で勉強して、感化され、宇宙について考え始めるのです。

 そして今にしてみれば有名なのですが、1927年に当時はあまり有名でない雑誌に論文を掲載します。彼の説は、「宇宙は小さな『宇宙の卵』から生まれた」というものです。膨張宇宙論の先駆けとなるものですね。そこで、「動的な宇宙モデル」を強く提唱しました。

 その直後に、ルメートルの母国であるベルギーで国際会議が開かれました。そこにアインシュタインもやってきたのですが、アインシュタインはルメートルのところにきて、「君の計算は正しいけれども、君の考えは忌まわしいね」とだけ言って去っていきます。つまり、ひどいことを言ったわけですが、それだけアインシュタインには膨張宇宙というものに対する拒否感がとても強かったのです。

 ルメートルはがっかりするかと思いきや、そうではありませんでした。「アインシュタイン先生は、最近の観測結果などあまりご存じでないだろうから、そういうのも無理はないだろう」と考えたといわれています。

 ルメートルは、実は膨張宇宙モデルを提唱する前に、アメリカなどで最新のデータを見せてもらっています。なので、宇宙膨張というものがどうやらあるようだと、うすうす感づいていた気配があります。


●宇宙膨張の発見と「ハッブル=ルメートルの法則」


 宇宙膨張、つまり宇宙が膨張するということは、ルメートルが「『宇宙の卵』から生まれた」説を提唱した2年後に、エドウィン・ハッブルによって報告されるこ...
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