「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
量子力学の歴史…始まりはアインシュタインの光量子仮説
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(8)特異点定理と量子力学
岡朋治(慶應義塾大学理工学部物理学科教授)
宇宙はどうやってつくられたのか。この問題を回避しようとしたのが「振動宇宙論」である。しかし、この理論はエントロピーの問題によって挫折する。これに対して、ホーキンズとペンローズによって「特異点定理」が提唱されるのだが、そうすると「とても小さな状態から宇宙は始めなければいけない」ということになる。これは、どんな理論もそのままでは取り扱えないことを意味する。そこで、宇宙解明のために必要となってくるのが量子力学である。(全12話中第8話)
時間:8分29秒
収録日:2020年8月25日
追加日:2021年1月30日
カテゴリー:
≪全文≫

●振動宇宙論の挫折


 ビッグバンというものがまずあったということは、観測的に確認されたといっていいと思います。ただ、その前はどうなっているのかというのが、この次の話になります。それは、宇宙がどうやってつくられたかという話です。

 当然、宇宙は膨張していますから、ビッグバン以前にもさらに小さな状態があったに違いないということになります。そうすると、突き詰めれば無限小の点になってしまいます。それは物理的には取り扱えない、とても大変な状態ですので、できるだけそれを避けようとする動きが1930年代にはありました。

 例えば、宇宙は振動を繰り返すといったものです。スライドの右上の図の通り、横軸に時間、縦軸に宇宙の大きさを取ると、膨張したものはいずれ収縮に転ずることが分かります。一点とはいわないまでも、あるところまで収縮して、「ビッグバン」と呼ばれるような状態にまで持っていく(収縮した最後は「ビッグクランチ」といわれます)。このビッグバンを繰り返して、振動を永劫続けるということで、膨張と収縮を永遠に繰り返す宇宙が提唱された時期がありました。

 ただこのモデルは、そのままでは成功しません。なぜかというと、熱力学の法則で「エントロピー増大の法則」があり、同じことを何度も繰り返せないからです。物事は乱雑な方向に、乱雑な方向に行くということです。

 それを考慮すると、振動宇宙は実は、スライドの右の図のようにどんどん大きくなっていき、その周期もだんだん伸びていくということになります。これを「定常的な宇宙」といいますか、「永劫に続く宇宙」という理論の立場からすると、あまり望ましくはないのです。


●ホーキングとペンローズによる「特異点定理」


 そうこうしているうちに、1965年に「特異点定理」が証明されます。これは有名なスティーヴン・ホーキング氏とロジャー・ペンローズ氏の仕事です。

 「特異点定理」とはどういうものなのか、説明します。アインシュタインの理論に従って宇宙全体を考えると、膨張宇宙は特異点というものから始まらざるを得ない。もう一つはブラックホールの中心にもその特異点は現れるのですが、彼らが証明したのは、特定の状況下で特異点が出現するということです。

 特異点とは何かというと、...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「科学と技術」でまず見るべき講義シリーズ
「進化」への誤解…本当は何か?(1)進化の意味と生物学としての歴史
実は生物の「進化」とは「物事が良くなる」ことではない
長谷川眞理子
本当によくわかる「量子コンピュータ入門」(1)量子コンピュータとは何か
「量子コンピュータ」はどういうもので、何に使えるのか
武田俊太郎
ChatGPT~AIと人間の未来(1)ChatGPTは何ができて、何ができないか
ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは
西垣通
ブラックホールとは何か(1)私たちが住む銀河系
太陽系は銀河系の中で塵のように小さな存在でしかない
岡朋治
性はなぜあるのか~進化生物学から見たLGBT(1)有性生殖と無性生殖
なぜ雄と雌の2つの性別があるのか…「性」の謎とLGBT
長谷川眞理子
培養肉研究の現在地と未来図(1)フェイクミート市場とリアルミート研究
食肉3.0時代に突入、「培養肉」研究の今に迫る
竹内昌治

人気の講義ランキングTOP10
逆境に対峙する哲学(2)運命・世界・他者
「私をお母さんと呼ばないで」…突然訪れた逆境の意味
津崎良典
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割
豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割
黒田基樹
平和の追求~哲学者たちの構想(4)ルソーが考える平和と自由
ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想
川出良枝
熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために
夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎