●振動宇宙論の挫折
ビッグバンというものがまずあったということは、観測的に確認されたといっていいと思います。ただ、その前はどうなっているのかというのが、この次の話になります。それは、宇宙がどうやってつくられたかという話です。
当然、宇宙は膨張していますから、ビッグバン以前にもさらに小さな状態があったに違いないということになります。そうすると、突き詰めれば無限小の点になってしまいます。それは物理的には取り扱えない、とても大変な状態ですので、できるだけそれを避けようとする動きが1930年代にはありました。
例えば、宇宙は振動を繰り返すといったものです。スライドの右上の図の通り、横軸に時間、縦軸に宇宙の大きさを取ると、膨張したものはいずれ収縮に転ずることが分かります。一点とはいわないまでも、あるところまで収縮して、「ビッグバン」と呼ばれるような状態にまで持っていく(収縮した最後は「ビッグクランチ」といわれます)。このビッグバンを繰り返して、振動を永劫続けるということで、膨張と収縮を永遠に繰り返す宇宙が提唱された時期がありました。
ただこのモデルは、そのままでは成功しません。なぜかというと、熱力学の法則で「エントロピー増大の法則」があり、同じことを何度も繰り返せないからです。物事は乱雑な方向に、乱雑な方向に行くということです。
それを考慮すると、振動宇宙は実は、スライドの右の図のようにどんどん大きくなっていき、その周期もだんだん伸びていくということになります。これを「定常的な宇宙」といいますか、「永劫に続く宇宙」という理論の立場からすると、あまり望ましくはないのです。
●ホーキングとペンローズによる「特異点定理」
そうこうしているうちに、1965年に「特異点定理」が証明されます。これは有名なスティーヴン・ホーキング氏とロジャー・ペンローズ氏の仕事です。
「特異点定理」とはどういうものなのか、説明します。アインシュタインの理論に従って宇宙全体を考えると、膨張宇宙は特異点というものから始まらざるを得ない。もう一つはブラックホールの中心にもその特異点は現れるのですが、彼らが証明したのは、特定の状況下で特異点が出現するということです。
特異点とは何かというと、「時空の曲率が無限大になる場所」というのが定義です。そして、それが出現するのはブラックホールの中心であり、膨張宇宙の初期であるということです。宇宙はアインシュタインの理論に従う限り、「特異点から始まらねばならない」ということが数学的に証明されてしまったのです。
つまり、「宇宙に始まりはあるのか」という問いに対しては、アインシュタインの理論に従う限り、「それはなければならない。特異点から始まらなければいけない」ということになったのです。
●量子力学の発端は皮肉にもアインシュタインの「光量子仮説」
そうすると困るわけですね。というのは、「とても小さな状態から宇宙は始めなければいけない」ということになったからです。そして、微小スケールの物理というものは、アインシュタインの理論であれ、ニュートンの理論であれ、そのままでは取り扱えないということを、実は1900年代から人類は知り始めているのです。
そうした微小スケールの物理を記述するのは、「量子力学」と呼ばれるものです。量子力学とは古典力学に対する言葉で、英語では「Quantum Mechanics」といいます。
これはどういうものかというと、説明がとても難しいのです。理系の学生の数年間はこれを勉強するために費やされますから、サクっと説明するわけにはいきません。
それでもあえてここで簡単にいうと、世の中のすべては粒子であり、(同時に)波動でもあるということです。その理論の先駆けとなったのは、1905年のアインシュタインの仕事です。アインシュタインは量子力学が大嫌いだったらしいのですが、その量子力学の発端となったのは、皮肉にもアインシュタインの「光量子仮説」です。これは、光が波長に比例するエネルギーを持つ一個一個の粒子から成るという仮説です。これによって、「光電効果」という物理現象を説明したわけですが、これがまず先駆けとなります。
一方、物質については、ルイ・ド・ブロイが「物質波仮説」を提唱しました。非常に小さなスケールで見ると、物質粒子でさえも波動性を呈するという実験事実があります。その波動性(波長)が、実はその物質の粒子の運動量(古典的にいうと質量×運動速度)によって決定されるということが分かったのです。
つまり、「宇宙にあるすべてのものは波であり、粒子である」という前提に立っ...