●今後の展望~まだ激しく理解が変化し得る「宇宙」という分野~
ただ、これ(前回お話した「宇宙の運命」について)はいろんな前提があります。
今分かっていると思しきことは、いろんな仮定に基づいているので、それのどこかが崩れると、いろいろと崩れてしまう恐れはあります。すべてが正しいと思って導かれた結論だからです。なので、いろいろ確認しなければいけないことがあります。それを最後に、今後の展望として挙げさせていただきます。
まず、宇宙開闢直後にインフレーションが起きたのかどうかということです。これは、大統一理論との絡みで、早急に証明しなければならないことですが、インフレーション理論の確認は、実は原始重力波の観測で行うことができます。
そして原始重力波については、宇宙マイクロ波背景放射をもっと丁寧に観測することで確認できるということが分かっています。背景放射の偏り(偏波の空間パターン)を見ることで間接的に確認できるので、今世紀(21世紀)中には分かると思うのですが、この確認が先決です。実際に今、この確認のための観測プロジェクトがいくつか進行中です。
次に、実はこれが一番重要なのですが、重力の量子論的な取り扱い、つまり量子重力理論で、これはいまだ未完成というところがあります。これがないことには宇宙開闢はまったく語れません。なので、かなり推測の域を出ないところが多いのです。
理由としては、アインシュタインによる「一般相対性理論」という定式化した天才的な理論と、これまで数々の天才的な物理学者が構築してきた量子力学、この2つがとても相性が悪いということによるものだからです。これを超える理論がどうやってつくられるのかというのは、いまだよく分からないのですが、これが完成をしないことには宇宙の開闢は議論することができないのです。
他には、これまでに申し上げました通り、われわれは宇宙について95パーセントを知らない、暗黒物質についてはまだ分かっていない、暗黒エネルギーについても知らない、ということです。これらについては、別々にちゃんと証明しなければいけないし、ちゃんと研究しなければいけません。
暗黒物質については、正体不明で重力相互作用だけを行う粒子だと考えられていますが、候補としては「ニュートラリーノ(ニュートリノの超対称性粒子)」や、「アクシオン」と呼ばれるものが挙げられているようです。ただ、何なのかを知らねばなりません。
そして、暗黒エネルギーも正体はよく分かりません。真空のエネルギーだといわれていますが、その起源は何なのかが分かりませんし、第5の力なのではないかという説も挙げられています。
要するに、分からないことだらけなのです。ですから、宇宙の進化に関してはいまだ激しく理解が変化し得る分野であるということを申し上げておきます。
●宇宙を知ることは自分を知ること~宇宙を研究することの意味~
最後になりますが、宇宙を研究することの意味について、簡単に述べさせていただきます。
なぜわれわれは宇宙に惹かれるのかということです。これは、きれいだからとか、ちょっと興味深いからだとかいろいろありますが、宇宙を知るということはその中にいる自分を知ることにつながる、これに尽きると思います。
人類が見た宇宙の理解というものが時代とともに変遷してきたことを簡単にご紹介してきましたが、古くは神話的なもので、そして宗教の中に取り込まれて信じるべきものになり、その後、今や宇宙に対し実証主義に基づいた自然科学として、われわれは挑むことができるようになっているわけです。これはとても重要なことです。
また、そうなってからそんなに時間は経っていません。せいぜい数百年なのです。ですから、これからもどんどん発展していく分野であることは間違いないわけです。
宇宙を知ることは自分を知ること。皆さん、たぶんお忙しい仕事の合間に、こんなことを考える暇はないでしょうが、例えば仕事が一段落したとき、あるいは何かに行き詰って、ちょっと悩んだとき、または単純に夜眠れないときなどに、ふと宇宙について考えてみていただければと思います。
そうすると、人生はたぶん、少しだけ豊かなものになるのではないかと思います。私の話は以上でございます。ご清聴どうもありがとうございました。